そしてみんなの苦難 3

主は飛行機の中で、ずっと携帯ゲーム機で遊んでいた。
レニアはうつらうつらとしている。
 
現地に着けば、もうひとりガイド兼護衛が付くという話だが
今は自分ひとりである。
眠るわけにはいかない、そうタリスが思った瞬間、声がした。
 
「寝て良いですよー。」
主がゲーム画面から目を離さずに言ったのだ。
それがやたら鋭い指摘に思えて、タリスはちょっと驚いた。
 
 
「いえ、これが私の仕事ですから。」
そう答えると、主がボタン連打をしながら棒読みで言う。
 
「そういうの、やめてもらえませんかねー。
 『仕事ですから』 とかー。
 そんなん言われなくとも、わかりきった事だし
 いかにもイヤイヤやってる、って感じで悲しくなるんですよねー。」
 
「申し訳ございません、今後は気をつけます。」
「うおっっっ! ああーーーっっっ! やってもたーーーーーー!
 もうー、あなたのせいだからねーーーっ!」
 
どうやらパーティーが全滅したようである。
「・・・申し訳ございません・・・。」
「・・・冗談だってー。
 ヤバいと思った時点で、帰還魔法を唱えなかった私の戦略ミスなんだしー。
 こういう八つ当たりもよくするから、真に受けないでくださいねー。」
 
無表情で妙な事を言うこの女性を、どう判断すれば良いのか
迷いに迷うタリスであった。
 
 
現地は太陽の光が強かったが、日陰に入ると乾燥した風で寒い。
「暑いんか寒いんか、よくわかんねー。」
全員が思った事を、主が大声で代弁した。
 
「主様、思った事を全部口にするのは
 おなたの場合、ほぼ礼儀に反しますから、お止めくださいませ。」
レニアが冷徹に言い放つ。
重箱の隅をほじくるタイプの女性である。
 
 
ひとりのいかつい男が真っ直ぐこちらに向かってきた。
推定20代後半、浅黒い肌の軍人風刈り上げヘアだ。
 
多分彼が現地の供だろうけど
一応タリスは警戒して、主の前に立った。
 
「よ-よ-、おめら主様ご一行ですだべ?
 おら、護衛ガイドのマナタっちゅうもんだす。
 どか、よろしゅうにお願い申し上げたてまつる。」
 
何弁なのか、はっきりせんかい!!!!!
 
誰もが同時に思ったが、自分の言語もおかしい事を自覚している主は
今度は何も言わなかった。
多分、彼は精一杯の敬語を使って、礼儀をはらっているのであろう。
 
「よろしくお願いいたしますー。
 私が主で、彼女はお世話をしてくれるレニアさんー
 彼が護衛のタ・・・タラス?さんですー。」
 
主はタリスの名をつっかえながら、?付きでも正しく言えなかった。
人の名前と顔を覚えるのが大の苦手で
自分の親兄弟の顔ですら、しばらく会わないと忘れるという。
 
「タリスです。」
自分で自分を紹介するしかない。
 
 
「んーだば、まずは宿に行こうですかね。
 車があるきに乗りなっせ。」
マナタに促がされ、見た方向にあったのは
見た事もない車種の、古いボロ車であった。
 
ドアも完全には閉まらないし
走り出したら、上下にバッコンバッコン揺れる。
 
「うわ、すっげー、ある意味、ダンシング・カーーーー?」
また主がわけのわからない事を叫ぶ。
 
「こっちじゃ良い車は逆に狙われるんですわいな。
 おぬしら、隠密行動なんだしょ?
 こういう車の方が安全保証だぜよ。
 わすはプロヘッショナルですじゃけんのう。」
 
 
マナタが威張って言うと、主が真面目に突っ込む。
「そのボロ車に、高貴で美しい裕福そうな女性が乗ってる方が
 いかにも怪しくて危なくないですかー?」
 
「うんうん、普通はそうだがや、今回は大丈夫なもし。」
そのマナタの笑顔に主は大らかに笑っていたが、レニアが激怒した。
「あなた、誰に向かってそんな口を利いているの?
 このお方はとても立派なお方なのよ!」
 
そのキイキイ声があまりにもうるさいので、主が抑えるよう言っても
「あなたを侮辱されて黙っているわけにはいきません!」
と、レニアの勢いは増す一方である。
 
「ああ・・・もう、何かワヤクチャー・・・」
 
 
かろうじて4ドア、という小さい車に、4人がギュウギュウ詰めになって
ホテルへと向かう車内での、主の小さいつぶやき。
 
この言葉が、今後の日程のすべてを表現している事に
この時点で知る者は誰ひとりとしていない
 
 
・・・わけがなく、そんな事ぐらい全員が容易に予想できた。
 
 
続く。
 
 
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