そしてみんなの苦難 5

ふいにドアが開いた。
驚くタリスに、部屋の中から寝ぼけ眼のマナタが蹴り出される。
 
「マナタさん、次はあなたが見張ってくださいー。
 タリンさん、中に入ってくださいー、話がありますー。」
ふああああ・・・、とあくびをするマナタを廊下に立たせて
主はタリスの腕を引っ張り、ドアを閉めた。
 
 
「タリンさん、あなた飛行機でも寝てないですよねー?
 今からすぐ寝てくださいー。」
いやしかし、と言おうとするタリスを遮って、主は強い口調で言う。
 
「寝不足だと、明日に差し支えますー。
 これは命令ですー。
 今すぐ寝てくださいー。」
 
タリスは、“命令” という単語に弱い。
言われた通りに自室に入って腕時計を見たら、夜中の2時半だった。
主は何故起きていたんだろう?
疑問に思ったが、明日からが本番なので考えずに眠りに付いた。
 
 
朝になっても、マナタが部屋のどこにもいないので
呼びに行こうと、廊下へのドアを開けようとしたが
何かがつっかえて開かない。
 
イヤな予感がして渾身の力で押して、やっと開いた隙間から覗くと
倒れているマナタの後頭部が見えた。
 
「おい、マナタ! 大丈夫か? マナタ!」
大声で叫んだせいで、主が起きてきた。
「どうしたんですかー?」
 
 
ドアの隙間から廊下を確認した主は、テーブルのところへ行き
ピッチャーを手にスタスタとドアの側に寄り、勢い良く水をブチまけた。
 
「うわっぷ!!!」
水を浴びて慌てて飛び起きたマナタ。
呆れた事に、ドアの前で大の字になって爆睡していたのだ。
ドアも床も水が掛かってビチャビチャである。
 
「ある意味、最強の戸締りでしたねー。
 予定外に早起きした事だし、
 さっさと、飯食って用意して出掛けましょうかー。」
主が腫れぼったい目で、涼しく言った。
 
 
朝食は悲惨であった。
時間通りにこないし、やっときた食事は
得体の知れないスープに、パンはパサパサ、オムレツも味がなかった。
 
「こんな事も (絶対に) あろうかとー。」
主はトランクの中から、ウイダーインゼリーとカロリーメイトを取り出した。
やけに荷物が多く、しかも重いと思っていたが
着替えの服かと思いきや、トランク1個丸ごと携帯食や菓子類だった。
 
それをタリスやレニアに渡す主を見て
他人の分までガツガツと食っていたマナタが言う。
「何どすえー? 何どすえー?」
 
主はマナタにもカロリーメイトを1箱投げた。
3人前の朝食を平らげたマナタは、その1箱も全部食った。
主はその様子に、見てるだけで満腹になる、と嘆いた。
 
 
レニアはホテルに残す事にした。
護衛面で負担が増えるせいもあったが、一番の問題は荷物である。
一流ホテルであろうと、こういう国では従業員による盗難も多い。
 
マナタが連絡をして呼び寄せた女性SPと共に
ホテルの部屋で荷物の番をする事になったのである。
 
それを告げられた時のレニアの顔は、ホッとしているように見えた。
今から行く場所は、決して気分の良い場所ではないからだろう。
そしてあのマナタの車、あれに乗らなくても済む。
 
 
「くれぐれもお気をつけてくださいね。
 あまり無理をせずに。」
それでもレニアは心配そうに、主を見送った。
 
「マナタさん、“今度は” ちゃんと主様を守ってくださいよ?」
マナタの信用は、24時間足らずですっかり地に堕ちていた。
 
 
「大丈夫じゃん!
 わいを誰と思おとんのんですかー?
 この国一のSPですわいなー。」
 
マナタがそう断言して出て行った後、レニアは女性SPに訊いた。
「本当ですか?」
女性SPの答はあいまいだった。
 
「まあ、割に・・・?」
 
 
続く。
 
 
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