「そんなこの国で、英語が話せて車の運転が出来て
VIPの護衛が出来るマナタさんの家って
どんだけの権力があるのか、考えたくもないですよー。
そんな権力者に、民主国家育ちの我々の常識を押し付けて
わざわざ怒らせる事はないでしょうー?」
「いや、しかし、命が掛かってるんですし・・・。」
「あのですねえー、そこいらの一般人の強盗より
権力者の気分を損ねる事の方が、命、直に危ないですよー?」
うっ、と黙り込むタリス。
確かにその通りである。
「何より、私のしようとしている事だって、違法行為なのだし
たかがガイドぐらいで、計画をフイにしたくないんですー。
それに、マナタさん、ああ見えて学ぶべきとこ多いですよー?」
「・・・どこがですか・・・。」
反抗的な気分になるタリスに、主が一撃を加えた。
「道端に転がっている石に美を感じれば、芸術家なんですよー。
学びは自分の感性次第、ってわけですよー。」
「・・・あなたは学べる、ってわけですか?」
感情的になって、上官に利くべきじゃない口調になってしまう。
「自分の学ぶべき事って、自分じゃわからない場合が多いですよねー。
でも見聞きしたものは、必ずどっかに残りますから
それを思い出して価値を見い出せた時が、学んだ瞬間じゃないですかー?」
タリスは主の言葉に違和感を覚えて、急に頭が冷えた。
館の管理人だと聞いていたのに
主の言葉には、どこか人を操る響きがある。
こんな人物が統べているなど、館というのは
単なるボランティア施設ではないのではないか?
主に根掘り葉掘り訊ねてみたい、という好奇心が
湧き上がってくる。
しかし、それは決してやってはならない事。
軍人に質問は禁忌だというのに、それを破ってしまっているどころか
反論までしてしまった。
これじゃあ、兵として最低じゃないか!
自分はこんな、出来ないヤツじゃなかった
ちゃんと実戦にも行ったのに
いや、“護衛” というのが初めてだから
とまどってるだけで、いつもの自分を取り戻せたら
・・・・・違う・・・・・
我々の仕事は、どんな “初めて” でも
失敗をしたら、取り返す事は困難なんだ
自分は失敗した・・・。
タリスの顔色を見て、主が言う。
「あなたには、“護衛” として来てもらってるんですー。
護衛は守る相手に指示を出す場合もあるー。
言い合いなんて、当たり前ですよー。」
・・・慰めか・・・?
貧民街を見て、「汚いー」 とか平気で言い放つお方が
果たして他人を慰める事をするのか?
いや、そんな事は問題ではない
問題は、護衛相手としてはならない口論をして
あげくが言い負けて慰められた、という部分である。
タリスが混乱していると、レニアたちが戻ってきた。
ワゴンには、美味しそうな料理が並んでいる。
「今日はこんなものしか出来ないですけど、我慢なさってくださいな。
明日の早朝に市場に行ってみますから・・・
あらっ、まだゲームをやってらっしゃったんですか!
いい加減になさってください!」
ゲーム機を取り上げようとするレニアに、主が追いすがる。
「ちょ、待って待ってー、せめてセーブだけでもーーーーーっ!!!」
その日の夕食は、レニアのネチネチと続くお小言に
主のゲーム擁護が交錯して、騒がしい食卓となった。
「まったく、ちょっと目を離すとゲームばかり・・・」
「それはすいませんが、次のダンジョンでラクしたいから
今の内にレベルを上げたいんですよー。」
「いいお歳だというのに、まったく子供みたいに・・・」
「日本のゲームは大人のするものなんですよーっ!」
「やめろと申し上げても、中々おやめにならないし・・・」
「セーブしとかないと、それまでの苦労が水の泡なんですよー。」
「夜も寝ずにゲームなさってらっしゃるし・・・」
「ゲームって1時間で終われるものじゃないんでー。」
レニアの顔色が真っ赤になった途端、怒声が響く。
「口答えばかり、なさいますな!!!」
「ひいいいいいいーっ、すすすすみませんーーーっっっ!」
主が椅子ごと後ずさりながら、悲鳴を上げた。
とりあえず、初日の夜中に
主が何故起きていたのかだけは、理解したタリスであった。
続く。
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