そしてみんなの苦難 9

「今日でとっとと終わらせますー。
 何かもう、さっさと帰りたいですしー。」
主がウイダーインゼリーを飲みながら、宣言した3日目の朝。
 
「えー、もっと遊ぼうぞなもしー。」
異議を唱えたのは、主に貰ったカロリーメイトを頬張るマナタ。
おまえ、やっぱり遊んでたのか! と、はらわたが煮えたぎったタリス。
 
 
「いえ、攻略本を忘れてきたんで、先に進めないんですよー。」
「なんぞね? それは?」
「今やってるゲームの指南書みたいなもんですよー。」
「ほお、ゲームで人生を左右させるんきゃ?」
「趣味って、そういうもんでしょー?」
「ん、まあ確かにそうじゃだな。」
 
主とマナタは、空笑いをし合った。
それがタリスには、タヌキとキツネの化かし合いに見えたのは
夕べの主との会話の影響である。
 
 
「んだば、今日はどうするだがよ?」
マナタがコーヒーを意地汚くおかわりしながら訊く。
 
「昨日の地区にある教会に連れてってくださいー。
 この国にも貧しい人々に奉仕している教会があるでしょうー?」
「ああ、あるだべ。」
昨日のように、レニアを残して3人はホテルを後にした。
 
タリスはひとことも口を利かなかった。
何もかもが釈然としないからで、そんなタリスを主は意に介さなかった。
 
 
ボロ車が前のめりに教会のまん前に停まる。
車から出ようとする主に、タリスが初めて口を開いた。
 
「お出になるんですか?」
「出ないと、いつまで経っても見つからないでしょうー?」
「しかし・・・。」
「大丈夫じゃあけえ。 わしがついとるわ。」
 
そのおまえが頼りないから俺が苦悩しているんだろーが!
タリスは心の中で、マナタを罵倒しまくった。
 
「ささ、お嬢様どうぞ。」
マナタが主側のドアを、うやうやしく開ける。
「慇懃無礼にありがとうー。 おーほほほ」
主とマナタの寸劇にも、タリスはイライラさせられる。
 
 
主は教会には入らずに、周囲を歩き始めた。
「ど、どこへいらっしゃるんですか!」
慌てて止めるタリスに、主が事もなげに答える。
 
「教会の中には用事はないんですよー。
 周囲をウロついている子供をチェックしたいんですー。」
「いや、しかし・・・」
 
狼狽するタリスに、主がきっぱりと言った。
「あなたの役目は、私を止める事じゃないですよねー?」
 
 
グッ・・・ と言葉に詰まるタリスに容赦なく背を向けて
主は再び歩き始めた。
マナタは車の横に立ったままである。
 
「何をやってるんだ、来い!」
タリスの怒声に、マナタはヘラヘラと答える。
 
「誰か残っておらんと、帰ってきた時にゃ
 ボルトの1個も残ってないだろうけんども、それでもええのんかー?」
 
 
ほんっっっとに、何てところだ!
タリスはいつもの沈着冷静な自分を見失って
カリカリピリピリしながら、主の後ろを付いていく。
 
主が少しうつむいて、右後方を確認する。
タリスも住人たちの遠巻きの視線を感じていた。
 
 
しばらく教会周辺をウロウロした主が、突然立ち止まり
タリスの方にグルリと振り向いた。
しかしその視線は、タリスを突き抜け
更に後方にいる子供へと向かっていた。
 
ああ・・・、最初から付いて来ていた子供だな
タリスが確認していると、主がその子の方へ歩み寄っていく。
 
 
止めたいところだが、さっきのような一刺しが恐くて
タリスは周囲に気を配りつつも、その様子をただ見守った。
 
 
続く。
 
 
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