国の北西は、もう寒かった。
灰色の厚い雲で覆われた空が、雪の予告をしているようだ。
「黒雪さまですか?」
走り寄って来たのは村長だと名乗る老人である。
「王子さまが・・・、わしの孫も・・・。」
「で、そいつらはあそこですか?」
黒雪が見る方向には、大きな帆船が泊まっている。
「ちょっとあの一番小さい帆を撃ってみて。」
黒雪の命じるままに、兵士が大砲を撃つ。
ドッカーーーーーーーーン!!!
「おお、凄い凄い、命中したわ、腕が良いわねえ。」
黒雪の拍手に、砲兵が頬を赤くしながら頭を掻いて照れる。
「な、何事だ!!!!! 誰だ?」
船上から、うろたえた声が響く。
「はーい、王子の妻ですがー?
お呼びになりましたよねー?」
甲板から見下ろす女性たちが、愕然とする。
「な、何だ、その軍隊は・・・。」
100余名の兵士に武器フル装備をさせ
自らも刃物携帯しまくりで、まるで針山のようになって
仁王立ちする黒雪が高笑いをする。
「権力というのは、こういう風に使うものですのよ。
おーっほほほほほほほ」
「え、ええーい、黙れ黙れ、おまえの夫がどうなっても良いのか?」
縛られた王子が引っ張り出された。
「王子さま!」「王子さま!!」
兵士たちの間に動揺の声が広がる中
黒雪が嬉々として、王子に声を掛けた。
「王子ーっ、心配しないでねーーー。
あの世でも絶対に、私はあなたを夫に選ぶからーーー。」
黒雪の奇妙な言葉に、海賊たちが王子に問う。
「あの女は何を言ってるんだ?」
王子は、悲しそうに微笑んだ。
「今から総攻撃をかける、と言っているんですよ。」
今度は海賊たちが動揺する番だった。
「王子であり夫であるこいつを見殺しにする、というのか?」
黒雪は、きっぱりと言い切った。
「おまえら、勘違いしてるようだけど
大事なのは国であって、王族じゃないのよ。
王族がいる理由は、国のトップがコロコロ変わると
他国から信用されないからであって
うちの王国には、もう跡継ぎがいるから
私たちの命は、国の平定に捧げてオッケーなわけ。」
銃を天に掲げて、黒雪が叫んだ。
「おまえらのようなヤカラから国を守るため
この身を捨てる事に、微塵のちゅうちょもないわ。
思う存分、皆殺しにしてくれる!!!」
「「「「「 おーーーーーっ!!!!! 」」」」」
黒雪の雄叫びで、兵士全員が銃を掲げた。
「ままま待て! こっちには村長の孫もいるんだぞ!」
泣き喚く男の子が連れて来られた。
「あらま・・・。」
黒雪が村長を見ると、村長は唇を噛みしめた。
「・・・あの子も、まがりなりにもこの村の長の孫です。
定めと思って、国のために散ってくれると思います。」
ギャン泣きしているんだけど・・・
黒雪はちょっと困った様子で考え込んだ。
「私たちが帰って来ない場合、あいつらを根絶やしにして良いから。」
隊長に小声でそう命令すると、持っていた剣類を外しながら
黒雪は甲板に向かって呼び掛けた。
「その子の代わりに、私が人質になります!」
黒雪の足元に積み重なる凶器を見て
一体どれだけ持ってくるのか、ゾッとした海賊たち。
続く
関連記事 : 黒雪伝説・略奪 1 11.6.23
黒雪伝説・略奪 3 11.6.29
カテゴリー 小説・黒雪姫シリーズ
小説・目次
黒雪伝説・略奪 2
Comments
“黒雪伝説・略奪 2” への2件のフィードバック
-
素敵です黒雪姫。私もこんな国主なら喜んで付いていきます。
Twitterで小説熱が上がっているという話があったので個人的には連日怒涛の黒雪姫更新ラッシュがあったら夢のようなのですが、日常・美容ネタももちろん楽しみにしています。このブログを初めて拝見した時は「やかたシリーズ そしてみんなの苦難」が山場を迎えていました。
連載途中からだったので小説は斜め読み(すみません)していたのですが、黒雪はリアルタイムで1話目の更新があったので腰を据えて読んでみたところ、「一体何がどうなってこんな事に」と話の根本が気になってしまいシリーズ最初から読み出したのが運のつき、他にやらなきゃならない事があったのを全部すっぽかして全小説一気読みしてしまいました。面白かったー。イキテレラはほんのりホラーテイストで話のオチが美しくまとまっていましたし、やかたシリーズはプロットの面白さと、アッシュとローズの性格が大好きなタイプだったので夢中になってむさぼり読みました。ああいう冷徹な判断が出来る性格の人間が上官とか上司だったら話が早くていいなー。ということは、私はあしゅさんに仕えるのが良いという結論になりますかね。
-
簾、ああああありがとうーーー!
詳しい感想、嬉しいよー。
いやあ、褒められると益々文豪になっちゃうなあ、ぐへへ。・・・にしても、思ったのが
登場人物に自分の性格が反映されてる、って
やっぱり素人なんだな、と。
自分にない性質を書けなきゃダメだな。ふうむ・・・、やっぱりエロマンガは
ムダじゃなかったか?
惜しいのは、エロに人物描写がほとんどないとこだが。
(だったら意味ねえじゃん!)恋愛映画か恋愛マンガを読んで
もちっと幅広い人格を身に付けるように頑張るよ。
ありがとう、書評、ほんと感謝だー。
コメントを残す