甲板には、見事にガラの悪そうな女性たちが並んでいた。
「ふむ、北国人は縦にばかり伸びて
筋肉が付きにくい体質だと思っていたけど、なかなかどうして。」
腕組みをしながらカツカツと、女たちの前を歩き回る黒雪。
「おっ、良いわねえ、この三角筋、私の近衛にならない?」
女性のひとりの肩を揉んで、ニッと笑う。
「奥さま!
女性が相手でも、私は妬きますよ!」
後ろ手に縛られた王子が、女走りで黒雪に駆け寄る。
「・・・王子ぃ~~~~~~。」
黒雪が呆れたように言うと、王子が苦悩の表情を浮かべた。
「・・・奥さまの言いたい事はわかっております。
さらわれるなんて、姫の仕事ですよね、くっ・・・。」
黒雪が溜め息をつきながら言う。
「もう、あなたには自爆装置でも着けときましょうかねえ?」
「そ・・・そんなあああああ。」
「うそうそ、冗談よ。 ちゃんと私が助けてあげるから。」
黒雪が王子の手首の縄を噛み千切る。
「待て! 誰が王子の縄を解いて良いと言った!」
列が割れ、ひとりの女性が現われた。
「あれが海賊の頭領です。」
王子が黒雪に耳打ちする。
身長は向こうが高いようだが、黒雪の方がゴツい体型である。
海賊の頭領だと言われるその女性は
白い肌、金色の髪に青い瞳の、筋肉がなければ美女である。
「おまえ、こんなひ弱な男でも、縛っていなきゃ安心できないの?」
黒雪がズイッと前に出る。
鼻をくっ付けんばかりに睨み合うふたり。
「さすが、豪傑と噂される姫さんだね。」
「おまえこそ、その眼輪筋は見事だわ。」
「では、ひと試合願おうかな。」
頭領が部下から木刀を受け取った。
「ちょ、私の武器は?」
「武器、持ってきてないのかい?」
黒雪は上腕二等筋を見せつつ、誇った。
「この筋肉が武器でね、ふっ・・・。」
「・・・じゃ、いくよ。」
「あ、待って待って、すいません、調子こきました。
やっぱ何か貸してー。」
部下がもう1本、木刀を投げた。
「では・・・。」
木刀の先をピタリと合わせるふたり。
その瞬間、電流が走るような手応えを感じたふたり。
この女、強い!
足場の悪い船上での試合は、黒雪には不利であった。
どうやら技術的にも運動能力的にも、この頭領の方が優れている。
しかし国を背負っている以上、一海賊に負けるわけにはいかない。
黒雪の勝ち目は、その気合いだけであった。
頭領は驚いていた。
王族、それも大国東国出身の姫が、自分とほぼ互角に打ち合っている。
しかも何だか嬉しそうである。
カンカンカンカン と、打ち合う音に合わせて
踊るように活き活きと木刀を振るう、この地黒のゴッツい姫が
時々神々しくも見え、圧倒される。
あたしの方が、場数を踏んでいるはず
現に、確実に勝負は付いてきている。
なのにこの姫の表情には、余裕すら伺える。
これが王族というものなのか
頭領には、より多く黒雪に打ち込みながらも敗北感が湧き起こった。
勝っても良いものか、頭領がありえない迷いを始めたその時
船室から部下のひとりが走り出てきた。
「3号船から救助要請です!」
続く
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