黒雪伝説・略奪 5

 化け物に襲われる3号船を前に、全員が凍り付いていた。
2号船に、ドデカいタコが絡み付いていたのである。
 
「・・・オクトパスってやつ・・・?」
RPGで化け物の名前を覚えたヤツがほとんどのはず。
 
「ねえ、水生動物に効く雷系の呪文は誰が習得してたっけ?」
「この世界に魔法があるのなら
 まず私に回復呪文を掛けてもらいますよ・・・。」
逃避する黒雪に、船酔いでヨロヨロの王子が言う。
 
 
「とにかく、3号船の乗員を全員こっちに避難させてください。」
真っ青な顔色をしつつも、王子が海賊たちに指示を出す。
 
「何でおまえの言う事を聞かなきゃならないんだよ!」
こんな時にまでそんな反抗をする手下に
黒雪が思いっきりケリを入れる。
 
「それはな、この王子の妻である私が
 おまえらのために命を賭けるからなのよっ!
 立場やらメンツやらの話題は、生き延びた暁にして!」
 
 
3号船に次々にロープが架けられ、それを伝って乗員が逃げてくる中
黒雪は逆に3号船へと渡って行った。
 
「あの女、まさかあの大ダコに向かって行くのか?」
頭領が王子を引きとめる。
「あれを退治するのが、私たちの使命なのです。
 あの船の武器庫はどこにあるんですか?」
「船の中央後部の地下二階にあるけど・・・。」
 
「奥さまーーーっ、武器庫は船中央後部の地下二階ですってー。」
黒雪に向かって叫んだ後、頭領に言う。
「私が渡り終えたら、ロープを切って
 あなた方は港へと急いで逃げてください。
 これを見せたら、軍隊長はあなた方を処刑はいたしませんから。」
 
王子は頭領に、指輪と共に手紙を渡した後
ロープをえっちらおっちら伝い始めた。
 
 
大ダコが絡みつく船は
何のアクティビティーなのか、と問いたいほど揺れていた。
こ・・・これで地下まで行くの無理!!!
甲板を前後左右に滑りながら、黒雪はなすすべがなかった。
 
王子が甲板に転げ落ちてくる。
「王子! あなた、よく渡ってこれたわね。」
「ええ、ロープを腰に巻いて何とか。」
王子がゼイゼイ言っている。
もう生きる屍のようにヤツレている。
 
 
「この生物は、魔界産ですよね?」
「うん、そう思う。
 てか、そうであってほしい。
 人間界にこんな生き物、いらんわ。
 そういうつもりで、カタを付けましょ。」
 
「ですよね。
 でもヘタに傷つけると、もっと大暴れするでしょうし
 最悪、逃げる可能性も・・・。」
 
ズシャーッ ズシャーッ と滑りながらも、話し合うふたり。
「アチッ、摩擦で服が燃えそうですよ。」
そこへザッパーーーンと波が掛かる。
「冷たっ! 熱いか凍りそうか極端な責めですね。」
 
まったく男は、暑い寒い暑い寒い、いっつもうるさい。
言っても、何も状況は変わらないのに。
 
しかし打ち付ける波しぶきは
大勢の幼児に往復ビンタをされてるように、不愉快な痛みがある。
「もう・・・、このタコも何でこんなに元気いっぱいなのよ?
 何のハッスルタイムなの?」
 
 
「あなた、地下に行って爆弾か何かを探してきて。
 最終的には、それを口に放り込んで爆発してもらおう。」
「あなたはどうするんですか?」
 
「私はとりあえず足を切ってみるーーーーー。」
言いながら黒雪は、タコの足の方へと平泳ぎで甲板を滑って行った。
 
 
 続く 
 
 
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