「頭領にだけ全部話して、海賊たちにどう言うかは
頭領自身に任せりゃ良いんじゃない?」
黒雪のこの言葉で、王子は頭領にすべて話す決心をした。
“事実” を聞いた頭領は、意外にもすべてを信じた。
「いくら貴人の言う事とはいえ、鵜呑みは感心せんなあ。」
混ぜっ返すような黒雪の言葉に、頭領は真面目に返した。
「鵜呑みにするだけのワケが、こっちもあるんだ・・・。」
頭領が顔をグイッと近付けて訊いた。
「あたしらが何故、海賊をやっているかわかるかい?」
黒雪も顔をググッと近付けて答える。
「暴力で稼ぎたいから?」
王子がバシーーーッと黒雪の頭をはたいた。
「皆が皆、あなたみたいな人じゃないんですよっ!」
「あたしらの部族は、昔は海賊じゃなかったんだ。
ちゃんとした “村” があったんだ。
それが偶然にもここ、この地なんだよ。」
見回すと、確かに廃屋がポツポツ残っている。
「うちの村は男たちが船を作り、畑を耕し
女たちが漁に出る、という風習だったんだよ。
海の神様は男性なんで、男が海に出たら荒れる
という言い伝えがあってね。」
「それは珍しいですね。
多くの地では、海の神は女性だと言われてますよ。」
「へえ、じゃあ、さっきのタコは男だったから
触手攻めをしてたのね?」
下ネタのつもりは、さらさらない黒雪だったが
王子が青ざめた顔で、たしなめる。
「奥さま、軟体動物が相手でも私は妬きますよ!」
頭領がイラ立った様子で、溜め息を付く。
「あんたたちが仲が良いのは、よーくわかったから
今は “こっちの事情” に集中してくんないかな?」
「あ・・・、すみません。」
王子だけが恐縮して詫びた。
黒雪はテヘヘと笑っている。 悪気はないようだ。
「あたしがまだ10代の頃だった。
嵐で何日も海上で立ち往生させられて
やっと村に戻ってこれた、と思ったら
村はこの通り、廃れてしまっていたんだ。」
両手を広げて訴える頭領。
「留守にしていたのは、ほんの数日だったのに。
その時に村にいた人々は行方不明さ!」
「王子をさらったのは、何か知ってるんじゃないかと思ったからさ。」
と言ったが、王子をおとりに黒雪を呼び寄せたのは
ついでに、噂の黒雪を見てみたかったからでもある。
頭領は頭を抱えた。
「何かがおかしいんだ。
世界が変わったとしか思えないような・・・。」
「ああー、それ多分、王子組み込みリセットされた時だわ。
洋上にいたから、見過ごされたんじゃない?
結構、適当な再生をしてるっぽいし。」
「無神経な言い方をしないでください!」
怒る王子に、黒雪があっさりと言い捨てる。
「だって神さまのやってる事自体が無神経なわけでしょ。
人間は少しは被害者ヅラしても良いと思うわよ。」
「それを言われると・・・。」
暗い顔をする王子の顔を覗き込んで、黒雪が優しい口調で言う。
「ああ、あなたは人間出身じゃないけど
根本的には、あなたのせいじゃないんだから
ウジウジしないでねー?」
「ウ・・・ウジウジですか・・・。」
王子は複雑な気分になったが
黒雪はこれでも慰めているつもりなのであろう。
「じゃ、あたしらには文句を言う事すら出来ないってわけだね?」
説明を受けた頭領は、怒りに満ちた表情で言ったが
黒雪は容赦なく言い捨てた。
「ふん。 型通りのセリフを言わないでよ。
しょうがないじゃない。
おまえ、あのデカい手を見て、かなうと思える?
自分個人のプライドやらを大事にして、強大な敵を作るより
弱者ヅラして、ご褒美をむしり取る方が
ずっと国のためになると思わない?」
黒雪は、握っていた鉄の石をグッと突き出す。
「だから真実は、あまり知らせたくないのよ。
被害を実感しなきゃ、傷も付かない。
おまえ、どの仲間にどの程度伝えるか、よく考えることね。
知って良かった真実なんて、実際はどうでも良い事ばかりなのよ。
ほとんどの事が、知らなきゃ良かった~~~(泣) なんだから。」
頭領は言葉に詰まった。
黒雪の言う事はドス黒いけど、的を射ている。
「不思議な事もあるものね、で終わらせときなさいよ。
皆が皆、現実に耐えられるわけじゃないんだし。」
こんな脳みそが筋肉の姫さんに、要点を突かれるとは・・・
固まって狼狽する頭領を見かねて、王子が入れ知恵をした。
「あの・・・、“使命感” なら
比較的、変換しやすいと思いますよ?」
続く
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