亡き人 39

「いいか? 勘違いするなよ?
 これは美談じゃないぞ。
 私はおめえらにとって、“弊害” だ。
 何気なく近くを歩いていたら、手を引っ掻かれて
 ちょっと血が出たりする、有刺鉄線のようなものだ。」
 
ゼロは寝心地が悪そうに、体を起こした。
「私は死ぬ。
 苦しんで、のたうち回って
 助けて、死にたくない、生きていたい
 と、泣き喚きながら死んでいく。」
 
急に咳き込んで、伏せるゼロ。
「大丈夫か?」
スピリチュアル・長崎の手が画面に映り込むが
ゼロにヒステリックに、はらわれる。
「私の人生に敬意をはらえるのは、私だけなんだ。
 だから 『死にたくない』 と、あがくんだよ。」
 
 
「この私の無様な姿を、一生忘れるな!
 私と出会った事を後悔せえ。
 死を恐れろ!!!
 生きていく義務というのが、どんなに辛いか
 でも幸運で当たり前なのか、脳に刻め。」
 
布団を両手で掴みながら、カメラを睨むゼロの表情は
怒っているのか、嘆いているのかわからない。
 
 
肩で息をしながら、再び横になる。
その、ゆっくりとした動きは、止まる寸前の機械のように見えた。
 
「・・・一瞬で消える関係もある、と教えてやったんだから
 私に充分に感謝して、隣にいるヤツを大事にせえ。
 おめえらに対して、未練など1mmもねえよ。
 私はとっとと成仏するから、うぜえ想いは持ってくれるなよ。」
 
 
しばらくの間、ゼロは無言で宙を見つめていた。
ほんの数秒だったけど、何分にも思えたのは
その様子が儚げで、不安をあおったからであろう。
 
「スピリチュアル(笑)・長崎、もう良い。
 言いたい事は永遠にあるんだけど
 どっかでキリを付けないとな。」
 
 
「こんな映像、見せられる方はたまらないぞ。」
スピリチュアル・長崎の言葉に、ゼロが鼻で笑う。
 
「隠せよ、良識ある “オトナ” たち。
 絶望に見えるであろう私の最期を。」
 
「悪いけど、そうさせてもらう事になると思う。」
「ふふん、賭けようぜ、あいつらがこの映像を見つけるかどうか。
 その時も止めろよ、観るべきじゃない、と。」
 
「何を賭けるのだ?」
「んー、おめえが負けたら、死ね。」
「何だ、その、やったらいけなさ過ぎるバクチは!」
 
ゼロは横目でニッと笑う。
「おめえは負けるよ。
 私はもう既に今この時も、あいつらに見られている気配を感じるんだ。」
 
 
その後、スピリチュアル・長崎に向かって敬礼をする。
「んじゃ、スピリチュアル(笑)・長崎
 50年後ぐらいに迎えに来るんで、賭けのツケを払えよ。」
「50年後は、私は普通に生きていない気がするのだが・・・。」
 
「ばかもの、ギャグだよ。
 おめえ、ほんとに頭が固いな。
 そんなんじゃ、いつまで経っても貧乏霊能者のままだぞ。
 置き土産に、ひとつ忠告をしてやろう。
 
 和 服 を 着 ろ
 改 名 し ろ
 
 言われた事ねえだろ?
 気の毒すぎて、誰も注意できねえんだよ。
 そこをあえて言ってあげた私に感謝せえ。」
 
 
ゼロは目を閉じた。
 
「てか、疲れた。
 もう寝るよ。 目が覚めるかわからんけど。
 ふん。」
 
「・・・ああ、おやすみ・・・。」
 
 
暗転。
 
 
 続く。
 
 
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Comments

“亡き人 39” への2件のフィードバック

  1. 簾のアバター

    何となく、なんですが、この作品舞台の脚本にしたら面白そう…。
    実現する力が自分に無いのが悔やまれます。

  2. あしゅのアバター
    あしゅ

    簾、好意的に見てくれて、ありがとうーーー。

    私もよくあるんだ。
    物語のアイディアが浮かんでも
    私じゃ小説にするのは無理だ、って事が。

    もちろん文章力や表現力も問題だけど
    困るのは知識のなさ。

    中学生レベルの勉強も忘れてるというのに
    時代設定や、実際の現場事情、専門知識
    そういうのがきちんとしていないと
    おかしくなる事ってあるだろ?

    “取材” って、作家や漫画家が行くけど
    確かに必要だよね、とわかったよー。

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