「おおっ、王子さまと黒雪さまがお帰りになられたぞ!」
城にはもう早馬による知らせが届いていた。
今回の旅で、最北西の場所に温泉と鉄の鉱脈が見つかった事は
城中の者が知っていた。
「さすが、あの黒雪さま!」
城の者は口々にそう感心した。
「・・・私の評価は低いですよね・・・。」
王子にそう言われたら、普通は返事に困るものだが黒雪は違う。
「しょうがないでしょ。
F1だって、ドライバーのみが褒め称えられて
メカニックの苦労は目立たないものだし。」
黒雪に気楽に言われて、王子は激しくムカついた。
「私だって体を張ってるじゃありませんか!」
王子の声がワンワン響いた。
場所は風呂場。
王子専用の広い風呂があるというのに
黒雪の後を付いてきて、黒雪が脱ぐ隣で王子も脱ぎ始め
黒雪が湯に浸かる横に入ってきて、グチグチ言ってるのである。
風呂担当の者たちも、全員困っている。
「あらあ、あなた、自分の評価のためにやってるんだー?」
黒雪が、プププと含み笑いをした。
これ以上に腹が立つ返しもない。
王子がザバーーーッと立った。
お、くるかな? と黒雪は思ったが、無言で風呂場を出て行った。
さすがの王子も、今までになく激怒したようである。
黒雪はそのまま、振り返るでもなく
のんびりとお湯に浸かりながら鼻歌を歌った。
「放っといて良いんですのん?」
ヌッと顔を出したのはキド。
キドは、またボウルでパック剤を練っている。
「おまえの、そのパック、臭いのよねえ。」
黒雪の嘆きを、キドは無表情で切って捨てる。
「無臭にするには、また余計な処理が必要なのですわん。
今はもう、美容は “ナチュラル” の時代ですのよん。
そんな事より、王子さま、可哀想じゃないのん。」
「んーーーーー。」
黒雪は、困ったように唸った。
“国のため” という信念をブレさせたらいけない。
何年もお偉いさんをやっていると
その内に、大義よりも保身が大事になってくる。
評価などを気にしていたら、判断に支障が出るというのに。
これを黒雪が本能で知っていたのは
生まれつきのお姫様だったからである。
評価などなくても、過去は揺るぎないのだ。
あの人も妖精界の “王子” とはいえ
私と違って、生まれた時から既にその立場を失っていたんで
今のこの地位にしがみつきたがる恐れもある。
北国の再興と繁栄のためには、評価うんぬんは諦めて
無償で使命を果たしてもらわないと。
鏡の前でマッスルポーズを取り、自慢の筋肉を確認しつつも考える。
さあて、どうやったらあの人が納得するかしら
黒雪にしては珍しく、少し悩んでいた。
続く
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黒雪伝説・王の乱 1
Comments
“黒雪伝説・王の乱 1” への2件のフィードバック
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サイドチェストとかオスカーとかやっている黒雪を想像して、
改めてすごいヒロインだなあと思いました。
ブートキャンプ新婚生活w評価にしがみつくより黙々と結果を出せとのこと、なんだか身にしみましたよ。
実直実直実直…(呪文) -
miu、黒雪は生まれも育ちも
まごう事なき “姫” だから
そこらへんの余裕度が違うんだよ。失っても、落ちぶれても
その気質だけは残るので、惜しまない。努力して手に入れたものは
絶対に手放したくないだろ?
恵まれていた黒雪には、それがないんだ。もちろん黒雪には黒雪の苦悩があるんだけど
それは平民には理解できないと思う。もう、別世界の生き物だよね。
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