デラ・マッチョが用意したスープを
黒雪がかっ込んでいる横で、王子は考え込んでいた。
今回の事で、じいは私に付いて来なかった。
私には奥さまが付いているから
身の危険だけはないと踏んだのだろう。
じいはきっと、城に残って王近辺を調べているはず。
「ネオトスが黒幕だったりしてー。」
黒雪がコーヒーを飲みながら、ヘラヘラと笑った。
一応の人間関係を王子に教わったデラ・マッチョたちは
黒雪の無神経な言葉にヒヤッとしたが
王子は黒雪の軽口に慣れているのか
ネオトスに全幅の信頼をおいているのか、サラリと流した。
「つまらない冗談ですね。」
「て言うか、今ふと思ったんだけど。」
黒雪が真面目な顔になった。
「この後、西に行くフリをしつつ東に行くのよね?」
「ええ。 今回の事を東国に知られる前に収めたいのです。」
王子の言葉に、黒雪が質問する。
「何で東国に知られるの?」
「えっ? それは・・・。」
「私の取り巻きに、東国のスパイがいると思ってるんだよね?」
「・・・・・ええと、それは・・・。」
困りまくる王子に突っ込む黒雪
デラ・マッチョはいたたまれずに、この場にいた事を
いや、黒雪の下に来た事を心底後悔した。
もう、何か最初からドロドロのドロ沼。
「普通それはやっておかなくちゃ、よね。」
黒雪は平然と言う。
「うちのとうちゃん、東国の王はちょっと頼りないけど
さすがに嫁ぎ先の娘の安否を確かめる術は心得てるだろうし。」
「え? じゃあ、本当にスパイがいるんですか?」
王子が驚いて訊き返す。
「あなたはヘビだからわからないだろうけど
人間の王族の通常の婚姻は、国の外交なのよ。
姫は嫁ぎ先での、生きた大使館なわけ。
私と共に北国に来た者の中には、諜報の役目の者もいて当然よ。」
「えっ、私との結婚は政略なわけですか!」
こういう話になると、すぐに我を忘れる王子。
「“通常は” っつってんでしょ! うっとうしい!!」
手の早い黒雪に頭をバチーンと平手で叩かれる。
「で、誰が東国の手先なのか、私にもわからないわけだけど
東国への道の途中で待ち伏せておけば良いわよね。
ちょうど温泉もあるし。」
王子が叩かれた頭をさすりながら言う。
「そうですね。
では、二手に分かれる必要がありますね。
西の村に話を通してワナを張る側と
東国への流出を止める側。」
「城に探りに行くのは?」
口を挟むレグランドに、王子が答える。
「それは “下ごしらえ” をしてからで良いでしょう。」
黒雪が指示を出す。
「じゃあ、棒、おまえが西の村に行って。」
棒???
全員が顔を見合わせる。
「おまえよ、おまえ。」
黒雪が三つ編みのクレンネルを指差した。
「あ、あたし、棒ですか?」
「“でくのぼう” よりマシでしょ。
そんで、頭領と肉は私たちと一緒に荒野へ来るのよ。」
「・・・名前では呼ばれないのね・・・。」
つぶやくレグランドに、エジリンが言う。
「“頭領” で何の文句があるだよ?
あたしなんて “肉” だよ。」
「フルネームは “肉団子” ねっ。」
にっこりと言う黒雪に、エジリンはムッツリする。
「こら、奥さま、あまりにも失礼すぎますよ!
クレンネル、多分あなたは今回はオトリとして
単独行動の時間が長くなるはずです。
難しいでしょうが、お願いしますね。」
「はい。」
クレンネルは、少し緊張した声で返事をした。
デラ・マッチョと王子が打ち合わせをしている間
黒雪はそこいらを爆走していたと思ったら
ドスンドスンと重そうな足取りで帰って来た。
「ちょ、冗談で狙ってみたらマジで獲れたわ!!!」
見ると、小さめの猪を担いでいる。
どこまで野性的なのか、呆れる一同の中、王子が頬を染めた。
「そういうとこが結構好きなんですよね (はぁと)」
バカ夫婦・・・。
続く
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