「棒、西の村でこれをワイロに使いなさいね。」
さばいた猪肉を担がされるクレンネル。
クレンネルと黒雪一行は、城の南西で別れた。
高台から望遠鏡で覗くエジリンに、王子が訊く。
「追っ手が放たれた形跡はありますか?」
エジリンは即答した。
「いえ、ずっと注意していますけど
今のところ、その気配がないのです。」
王子は考え込んだ。
「それもおかしいですねえ・・・。」
「私たちの追放が目的なんじゃないの?」
黒雪が王子の肩越しにヌッと顔を出す。
「追放・・・? 何のために?」
「あれよあれ、シャイニング!
雪に閉ざされた城の中で惨劇が・・・。」
困って目を逸らそうとしたレグランドは、王子と目が合ってしまった。
「とにかく私たちは荒野で待ちましょう。
あそこなら雪に閉ざされないし。」
「うーん・・・、待ちは性に合わないわー。」
「あなたは今すぐに城になだれ込んで暴れたいでしょうね。」
王子の言葉を、黒雪は意外にも否定した。
「ええ? まさかー。
城攻めは遠くから大砲を撃ち込むものよ。
おっほっほ。」
黒雪の言葉を聞いた王子が、考え込んだ。
「・・・・・・・」
「どうしたの?」
黒雪が訊くも、放置して
レグランドとエジリンと、何かを話している。
その後エジリンは、クレンネルの後を追って行った。
「ねえ、何がどうなってるのよ?」
黒雪が王子にせっつく。
王子はそんな黒雪を見て、ニヤニヤした。
「あなたにせがまれる、というのも中々良いですね。」
その言葉は、黒雪をものすごくイラ付かせた。
「あなたじゃなければ、殴り殺している自信があるわ!」
黒雪はプイッと背を向けて、荒野の方にズンズン歩き始めた。
その背中に怒りの炎が立ち上っている。
レグランドはゾッとしていた。
あの黒雪をここまで怒らせて、平然としている王子にである。
どう見ても、王子の方が黒雪に惚れていて
また、黒雪の方が派手で目立って、能力があり
常に王子が後を追って回っているように感じるのだが
近くでしばらく過ごしてみると
王子の立ち位置がまったく動かないのがわかるのだ。
この王子、意外にも食わせ者かも・・・
レグランドは密かにそう思っていた。
黒雪がブリブリ怒って突き進むちょっと後ろから
王子が道端の花などを愛でながら、ゆっくり歩いて行き
そのまた後ろを、レグランドがついて行く。
ポツンポツンと咲く紫の花の隣を、枯れ葉が転がって行く。
秋が足早に去ろうとしていた。
続く
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