王子と黒雪はやっと温泉近くにたどり着いた。
「温泉に来る良い口実になったのよ、きっと。」
「そんな事を言うものじゃありませんよ。
おくさまの事を心配なさったから
温泉を口実に、様子を見においでになったんでしょう。」
「いずれにしても、一国の王妃が他国に外出など
国を揺るがし兼ねない暴挙だわ!」
「まあまあ。
しかし、どうやって継母上に連絡を付けましょうか?
継母上はお忍び、私たちは追われる身ですよ?」
望遠鏡を覗きながら、黒雪が事もなげに言う。
「ねえ、あの温泉、私たちの支配下におかない?
その方が、今後も色々と都合良いと思うんだけど。」
王子は、また始まった、という顔をした。
「それは賛成しかねますねえ。
支配 = 庇護 ですよ。
守るものは少ない方が自由でいられるでしょう。」
「ああ・・・、そう言われたらそうね。」
あっさりと意見を翻したはいいけど
ちょっと考え込む黒雪。
「どうしたんですか?」
「いや、“守る” で何か忘れてる気が・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・あっっっ!!! 子供たち!!!」
驚愕したあとの王子は
容赦ない非難の目を、黒雪に向けた。
「・・・今まで忘れてたんですか?
あなた、母親でしょうに・・・。」
「ごめん!
ちょっと助けてくる!!!」
ガッと立ち上がった黒雪の手を、王子が掴んだ。
「子供たちは、じいが見ていますから大丈夫ですよ。」
「えっ・・・?」
「王族たるもの、いつ謀反されるかわからないですからね。
もしもの時の回避方法は、いくつか用意してますよ。」
黒雪は激しく感動して、王子に抱きついた。
「ありがとうーーーーーーー
さすが、あなただわーーーーーーーっ。」
王子も満更じゃなく、でも釘を刺す事は忘れない。
「可愛い我が子ですからね。
でも、あなた、もう少し子供を構ってあげなさいね。」
黒雪は王子に抱きついたまま、うんうんとうなずいている。
本当にわかっているか怪しいものですね、この猪女は。
そう思う王子だったが、黒雪の感謝が心地良い。
思わずニンマリしつつ、ギューッと抱き締め返した。
と、その時、温泉の建物から馬車が動き出した。
「あっ、誰か出てくる。」
「頭が出てます、隠れてください!」
望遠鏡を覗く黒雪を、王子が岩陰に引っ張る。
黒雪は這いつくばって、地面に耳を付け
王子は体育座りで、ジッと息を殺す。
「・・・ねえ・・・。」
黒雪が王子を横目で見ながら、顔を曇らせる。
「い・・・嫌ですよ
そんな不安になるような表情をしないでくださいよ。」
王子が早過ぎるビビりを発動した直後
黒雪が剣に手を掛け、王子をかばうようにしゃがみ込んだ。
続く
関連記事 : 黒雪伝説・王の乱 10 11.8.30
黒雪伝説・王の乱 12 11.9.5
黒雪伝説・王の乱 1 11.8.4
カテゴリー 小説・黒雪姫シリーズ
小説・目次
コメントを残す