黒雪伝説・王の乱 12

剣を静かに抜いた黒雪の目の前に現れた馬車の窓には
女性の姿が見えた。
 
「相変わらずのバカップルぶりですわね。
 温泉から丸見えでしたわよ。」
その声には聞き覚えがある。
 
 
「・・・お・・・継母さ・・・ま・・・?」
黒雪がとまどいながら言う言葉を聴いた王子は
紳士としての根性で、驚きを包み隠した。
 
「東国での披露宴以来ですね。
 ご無沙汰をしております。」
冷静に片膝を付いて頭を下げる王子の隣で
黒雪が言ってはならない言葉を叫ぶ。
 
「お継母さま、荒地の魔女かと思いましたわよ!!!」
(注: ハウルのあの魔女)
 
 
継母は、渋い顔をした。
「・・・産後太りをしてしまって・・・。」
「はあ? 産後何年経って、ようやく太ってるんですか?」
 
まったく、この人の口は塞いでおかねば
王子は黒雪を押しやって、話題を変えた。
「ご心配をお掛けしたのは申し訳ございませんが
 王妃様御自らがおでましになって大丈夫なのですか?」
 
その言葉でも、話題は変わらなかった。
「ええ。
 温泉でダイエットをする、という理由で
 何ヶ月も城を離れていられますのよ・・・。」
 
もう、この母娘の間に入るのは止めとこう
王子はさっさと諦めた。
 
「ああ、それはそうですね。
 さすがお継母さま、丸くなって転がってもタダでは起きない。」
黒雪には、あくまで悪気はない。
 
 
「で、そっちはどうなっているの?」
継母が窓越しに、見下す目つきで訊く。
 
黒雪が冷たい視線で返す。
「お継母さまの方が詳しいんじゃないんですか?」
 
 
ふたりで喧々ごうごうと言い合った結果
王の様子がおかしくなったのは、数ヶ月前ぐらいから。
その変化は、継母の時に酷似している、という事だけ。
 
「ご自分の事を、えらい客観的に覚えていらっしゃるんですねえ。
 確かにそう言われると
 王とお継母さまの雰囲気、似ていましたわ。」
 
「ええ。 まあね。
 “あの時” のあたくしは、自分で思い出しても
 懐疑心と攻撃性が強かったのよね。」
「・・・それが通常のお継母さまのような・・・。」
 
継母がギロッと睨む。
「じゃあ、今のこの穏やかなあたくしは何なの!」
「安穏としてるから太るんでしょうが。」
黒雪がサラッと応える。
 
王子はハラハラしていたが
ふたりのやり取りは、これが普通の状態である。
 
 
「ほら、あなたが鏡を割った時に
 あたくしたち、荒野に飛ばされたでしょ?
 北国の村が滅びた話といい
 鏡は北国に縁があるような気がしない?」
 
継母の言葉に、王子が考え込む。
確かに、どうもこの荒野がキーポイントのような気がしますね・・・。
だけど何故・・・?
 
王子の思考を、黒雪がさえぎる。
「それより、お継母さま、何か食べ物ありません?」
継母が従者に合図をした。
 
「食料と、サバイバル道具一式を用意しときましたよ。」
黒雪が飛び跳ねて喜ぶ。
「凄い! さすが東国の王妃、わかってらっしゃる!!!!!」
 
 
その感謝に満更でもなかったが、とりあえず怒る継母。
「黒雪、今回のように何かあった時のために
 あちこちにこういう装備を隠しておくのが基本でしょう。
 あなたこそ、平和ボケしてるんじゃないのかしら?」
 
黒雪は、ウッ・・・ と言葉に詰まった。
「おっしゃる通りですわ、お継母さま・・・。」
継母がなおも追いかぶせて、説教をタレる。
 
「あたくしなど、西、南、北の関所近くに
 逃亡用具を隠しているわよ。」
 
「・・・わかりました。
 では、お継母さまを討つ時には、まずそこを潰しますわ。」
 
今度は継母がウッと詰まり、黒雪がニタッと微笑んだ。
 
 
相変わらず恐ろしい母娘ですね・・・
王子が後ろで身震いをした。
 
 
 続く 
 
 
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Comments

“黒雪伝説・王の乱 12” への2件のフィードバック

  1. あまぐりのアバター
    あまぐり

    黒雪と継母の応酬は、緊張感とテンポの良さが
    たまらなくツボです!

  2. あしゅのアバター
    あしゅ

    ありがとうーーー!

    確かに継母は書きやすいんだ。
    継母を主役にすりゃ良かったよ・・・。

    ・・・とか言ってたらバチが当たるよな。

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