「何故、寝袋って1人用しかないんですかね・・・。」
王子が星空を見上げながら、白い息を吐く。
「・・・さあ・・・。」
眠い黒雪は面倒くさそうに、それでも返事だけはする。
「ふたりで一緒に寝られる幸福、というのは
孤独に育たないとわからないものでしょうね。」
王子の可哀想な身の上ぶりに、少しイラッとした黒雪が
低音で不機嫌そうに言う。
「片時も離れずに側にいてくれた執事がいるでしょうが。
人間界の王族は、ふたりで寝る、という意識すらないものよ。」
じい・・・
王子は妖精界での、隠れ住んでいた日々を思い出した。
あの頃は、定期的に住処を替える時以外は
私は閉じこもった生活だった。
家や食料や生活道具は、全部じいが用意してくれた。
学問や常識なども、すべてじいが教えてくれた。
私はいつも本を読んで過ごした。
ずっとそうやって生きていくのだと思っていた。
自分がハブ女王の息子だと聞かされるまでは・・・。
王子は、ふと疑問が湧いた。
そう言えば、何故あの時に
小人さんたちの家に行く事になったんだろう?
確か、じいが一緒に来てくれと言い出したんだった。
今になって思い返すと、あの家に姫がいると
じいはわかっていたんじゃないだろうか?
何故・・・?
王子は、この自問自答にショックを受けた。
何故今まで、この事に疑問を感じなかったんだろう?
気付かない事、知らされていない事は多い。
黒雪はそれでも平気なようだが
幸せを知った今の王子は、子供時代の自分が
みじめだった事にも気付いてしまったのだ。
その理由を探さないと、この幸せがまた
自分の元から去っていきそうな気がして
不安でたまらなくなる。
「奥さま、私はもう二度とひとりになりたくありません!」
王子は寝袋に包まれたまま、寝ている黒雪の上に頭を乗せた。
「んーーー・・・、神さんに言え、そういう事はー。」
黒雪が寝ぼけつつも、厳しい事を言う。
王子は、イビキをたてて爆睡する黒雪の胸の上で
シクシクとすすり泣いた。
夜中に泣くヘビ王子・・・
なかなか恐いものがあるが、本人にとってはドン底である。
続く
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