「ほら、黒雪、デザートよ。」
継母がリンゴのバター焼きを差し入れする。
黒雪は目の前に置かれた皿をマジマジと見つめる。
そういえば “あの時” も、この継母はリンゴを持ってきた。
「ほほほ、今度は毒なんて入れてないわよ。」
察しの良い継母に、黒雪が不思議そうに訊く。
「何故いつもリンゴを持ってくるんですの?」
「あなたの好物だからよ!」
継母が呆れ顔をすると、黒雪は え? という表情をする。
「リンゴ、好物じゃないの?」
「と言うか、むしろ苦手ですわ。
何故そのような勘違いをなさってらっしゃいますの?」
「え・・・、王室便りのあなたのプロフィールに・・・」
そこまで聞くと、黒雪は爆笑した。
「お継母さまーーー、あれを信じてらっしゃったのね。
あれは国民への広告だから、“編集” してありますのよ。
意外なところで純粋でしたのねーーーっ、あははははは」
ムッとしている継母に、黒雪が調子こく。
「今度から、私の本当の好物を持ってきてくださいませね。
そしたら毒入りだろうが何だろうが、ペロリですわよ。」
「あなたの本当の好物って何なの?」
「サキイカですわ。」
「それをアンケートに書いたの?」
「もちろん!」
継母は黒雪の頭を、扇子でフルスイング殴打した。
「そんな事ばかり書いてるから、編集されるのよ!!!」
王子が好奇心で、つい口を挟む。
「で、王国便りは編集されてるのですか?」
「多分、黒雪のだけだと思いますわ。
だって、王やあたくしや、他の子供たちのは
そのまま載っていますからね。
このバカ女が、姫としてふさわしくないトンチンカンな事を書くから
余計な編集をされたのよ。」
頭を抱えてうずくまる黒雪が、涙ぐみながら怒鳴る。
「でも、その編集のお陰で
どっかのクソババアの毒入りリンゴを食わずに済んだのに!」
それを言われると弱い継母。
言葉に詰まっているところに、王子が助け舟を出す。
「まあ、あの事件がなければ、私とあなたは出会えなかったし
今こうして無事なのですから、結果オーライですよ。」
せっかくの王子のフォローも、台無しにする黒雪。
皿の上のリンゴの薄切りをつまみ上げて、更に非難をする。
「しかもバター焼きって、冷えると脂分が固まって最悪なのに
調理場から離れた、しかも寒い荒野という状況で
何故これを持ってこよう、と思うんですの?」
正論が正義とは限らない。
継母と王子が、同時に黒雪にゲンコを喰らわした。
「王妃さま・・・。」
継母の従者が、望遠鏡を差し出す。
それを覗き込む継母。
「あの煙は何なのですか?」
王子も自分の望遠鏡で、継母の見ている方向を見る。
「あれは、東国王族専用の暗号、“ノロシ” よ。」
黒雪が隣で、地ベタにあぐら座りをして
あんだけ文句を言ってたリンゴのバター焼きを食いながら答える。
「黒雪、ファフェイからお呼びが掛かったわよ。
さっさと行きなさい。」
「お継母さまは?」
「あたくしは、ここで待ってるわ。」
「ええーーー、コトが終わったら、またここに来なきゃいけないのー?」
「別に来る必要はないわよ。
あたくしは、ここにエステに来ているのだし。」
ふん、と、ほくそ笑む継母を、黒雪は睨んだ。
ほんと、食えないババアだわ・・・。
王子と黒雪が去った数日後、継母は従者に言った。
「さあ、そろそろ、お茶をしに出掛けるわよ。」
続く
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