王子に続いて、部屋に入ったレグランドの横に人影が動いた。
ドアを閉めたのは、ファフェイである。
「あっ、あんた、どうし・・・」
「シッ」
ファフェイはレグランドの口を塞いだ。
「アヒッ、うっかり女人の唇を触ってしまったでござる!」
動揺して飛び跳ねるファフェイに、レグランドは脱力する。
「・・・メガネをかけて・・・。」
「奥さま、ありましたか?」
王子が部屋の奥へと進む。
仕切りのカーテンをめくると
椅子にもたれ座っている王の横に、黒雪が立っていた。
「うん、ここにあったわ。」
黒雪が指差す方向には、布が掛けられた板のようなものがある。
「・・・やはり、そうでしたか・・・。
だけど何故、王はこのような状態なのでしょう?」
焦点の定まらない目の王は、明らかに放心状態である。
「さあ・・・、今度の鏡は前のとは違う、って事かしらね。」
鏡?
レグランドは驚愕した。
と同時に、納得もした。
あの王の突然の狂乱が、話に聞いた “魔法の鏡” のせいならば
すべての理由がわかる。
が、目の前の王が呆けているのは、確かに不可解である。
「鏡にも話し掛けてみたけど、無反応なのよ。」
黒雪が掛かっていた布を取る。
「私が来る前に、そんな危ない事をしたんですか!」
怒る王子に、ノホホンと黒雪が答える。
「お話だけよ、お・は・な・し。」
「鏡が相手でも妬きますよ、私は!」
その言葉がツボに入ったのか
王子の背中をバシバシ叩きながら、黒雪が笑う。
「あはは、あなたもだいぶ面白くなったじゃないの。」
ふたりの気の抜けたやり取りに、少しホッとするレグランド。
ふと横を見ると、ファフェイがこっちを見ている。
「おぬしは良い部下であるな。」
「・・・何を言ってるんだ?」
事もなげに、ふん、と顔を背けたレグランドだったが
ファフェイに見抜かれている気がして、内心イライラさせられる。
「さあ、“これ” をどうしましょうかね?」
王子の迷いに、黒雪がサラッと言う。
「もちろん割るわよ。
南斗水鳥拳は使わないけど。」
「やはり割りますか・・・。」
「もーーーっ、家宝にでもしたいわけ?
ウダウダ言ってないで、とっとと心の準備をしてよ。」
黒雪が壁や床をドカドカ蹴る、例のカウントダウンを始めそうなので
王子が慌てて、ファフェイとレグランドに言う。
「では、どっかに飛ばされるかも知れないし
突然目の前に魔物が現れるかも知れませんが・・・」
「いずれにしても、敵は殺るだけ! 以上!
さあ、いくわよ!」
王子のモタつく演説をさえぎった黒雪が
鏡に向かって、正拳突きをかました。
続く
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