黒雪伝説・王の乱 20

黒雪の足の下には、小さな丸いものが潰れていた。
「?????????」
全員が覗き込む。
 
その潰れた丸いものは、ポワンと煙となって消えた。
 
「今の何なのかしら?」
「生き物じゃなかったわよね?」
「いずれにしても、この世界のものじゃないんじゃ?」
「じゃ、あれが今回の “魔物” でござるか?」
 
「この話、まだNO死体ですよねっ!」
王子のガッツポーズに、継母が黒雪を見る。
 
「・・・ああいう事にばかり、やたらこだわって・・・。」
黒雪の気まずそうな言い訳に、継母はニヤッとした。
「愛されてるわね。」
黒雪が継母の言葉に、嫌そうにそっぽを向く。
 
 
「う・・・、ううーーーん・・・。」
声のする方を見た一同は、驚いた。
 
王が転がっているのである!
 
そうだった、わかっていた事だけど忘れていた。
そこにいた者は全員飛ばされるんだった。
 
 
黒雪がとっさに、起きかけている王の首にケリをくらわせる。
王は顔面を土にメリ込ませた。
 
「王さまが起きたら、厄介な事になるんじゃないですか?」
慌てるレグランドに、王子がより一層慌てて言う。
 
「だからあなたにも来てもらったんです。
 さあ、王を担いでください。
 急いで城の王の部屋に戻りますよ!」
 
 
王子の進む方向を、黒雪が訂正する。
「そっちじゃないわよ、城は西北の方向よ。」
 
王子はニコッと笑った。
「こういう事もあろうかと思って、エジリンに頼んで
 この先の海に海賊船を待機させてたんですよ。
 城まで歩くより、航路の方が早いしラクですからね。」
 
ああ、あの時のコソコソ話がそうだったのね
黒雪は、王子の読みの深さに感心した。
「さすが、あなたね。」
「奥さま・・・。」
 
ヒシッと抱き合う二人に、継母がイラつく。
「もう、いい加減にしてちょうだい!!!
 一刻を争そう状況でイチャついて許されるのは、映画だけよ!
 現実にやられると、これ程イラつく事もないのよっっっ!!!」
 
 
継母の尋常ならない剣幕に、恐怖を感じた一行は
慌てて北へと走り出した。
 
「待って! この薬を持ってお行きなさい。
 これは眠り薬よ、8時間おきにこれを嗅がせれば
 目を覚まさせずに城へと戻せるわ。
 従者、馬を!」
 
継母の従者が、馬を3頭ひいてくる。
「この馬は使い終わったら、ファフェイに返してちょうだい。」
継母の準備の良さに、王子は感嘆した。
 
「あのお継母上に殺されかけて、なお
 生きてるあなたは、“奇跡の人” ですねえ。」
のちに王子は、黒雪にこう語る。
 
 
ドドドドと走り去る一同を眺めつつ
継母は何事もなかったかのように、お茶の続きをした。
 
冷めた紅茶を淹れかえるメイドとウェイターは
武術と策略に優れた従者である。
 
「戻ってくるかしら?」
「北国はもう冬に入りますので、来られないでしょう。
 王妃さまも、そろそろ城にお戻りにならないと・・・。」
 
継母は一輪挿しのバラの花びらを1枚むしると、紅茶に浮かべた。
「そうね。
 では今から10日ほどで、本気で痩せるわよ。」
 
「御意。」
 
ウェイターは、クッキーの皿を下げた。
 
 
 続く 
 
 
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