黒雪伝説・王の乱 21

全行程が陸路の場合よりラクとは言え
荒野から北の海までの疾走と
他の者に気付かれない場所に停船してからの陸路、
しかも休憩も取れない大急ぎの行軍は、想像以上に過酷であった。
 
城の近所まで着いた時には、一同はもうヘロヘロだった。
陸路では、不眠不休で馬を飛ばしたからである。
 
馬ももうヘトヘトだったが、黒雪の形相に
動物なりに、走らなければ殺られる! と察したらしい。
 
 
「こ・・・ここまでハードな任務は、さすがの私も初めてだわ。
 途中の船がなかったら死んでたかも・・・。」
 
黒雪が弱音を吐くほどの強行軍に
馬から降りた時には、全員が地面に突っ伏した。
 
「ちょ、ちょっと休憩を・・・」
音を上げる王子に、黒雪が怒鳴る。
「ダメ!
 私たちは食ってるけど
 寝せっ放しの王の体力が持たない!」
 
 
黒雪は足を踏ん張り、王を担いでフラリと立ち上がる。
「黒雪さま、あたしが王さまを担ぎます。」
手を貸そうとするレグランドに、黒雪が息切れをしながらも言う。
 
「1時間ずつの交替にしましょう。
 城まで、あと少し。
 城が見えたら、夜になるまで休めるから頑張るわよ!」
「はっ!」
 
黒雪のその踏み出した一歩が
まるで地中にズシリとめり込んだ気がした。
それほど疲れていて、肩に担いだ王が重いのである。
意識がない人間の重さは、3倍増しぐらいに感じる。
 
あとは気力でどれだけ行けるかよ!
黒雪はカッと目を剥いて、一歩一歩を踏みしめていく。
王子とファフェイは、もう言葉も出ない。
 
 
「王子さまは?」
「はい、先ほどお部屋に戻られました。
 王子さまには執事殿が付いておられるので
 私が王さまのお部屋を警護しております。」
 
クレンネルが王の部屋の前で、見回りの衛兵に答える。
「そうですか、お疲れ様です。」
「お疲れ様です。」
クレンネルは敬礼をすると、仁王立ちで視線を固定した。
 
 
王子が食べたかのように見せかけた食器を
厨房に持って行く執事に、大臣たちが声を掛ける。
 
「王さまと王子さまの話し合いはどうなっておる?」
「はい、このところ王子さまが忙しくて
 王さまとあまり話せていなかったので
 良い機会だと、充分に時間を掛けていらっしゃるようです。」
 
「黒雪さまは、どうしてらっしゃるのじゃ?」
「どうせ外に出たついで、と
 資源調査をしてらっしゃるようです。」
「おお、そうか。
 働き者の姫さまで、ほんに良かった。」
 
執事は安心を確認し合う大臣たちに
お辞儀をして、足早に立ち去る。
 
 
王子たちが中に入って、もう1週間。
実は “王子はこの城にはいない” という事を
城の者たちには、疑う様子は見られない。
 
だが、それにも限度がある。
皆、悪い想像をしたくないから
我々の言う楽観を無条件に信じようとしているのだ。
 
王が王子たちに牙を剥いた事は、消せない事実。
それは、王国を揺るがす程の事件!
 
 
王子さま、黒雪さま、急いでください!!!
 
執事とクレンネルが、内心で祈っている真っ最中に
黒雪たちは、決死の行軍をしていた。
 
 
 続く 
 
 
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