黒雪伝説・王の乱 23

「おお! 黒雪さま、お帰りなさいませ!!!」
見回りの衛兵が笑顔で駆け寄ってくる。
 
が、皆、作り笑いをしつつ後ずさる。
「どうしたのかしら?」
黒雪の疑問に、エジリンがきっぱりと答える。
 
「黒雪さま、熊のような匂いがするだよ。」
「ああ、何日も入浴してないしね。」
 
黒雪の軽い返事とは裏腹に
出迎えに来た人の波は、浴場に向かって割れていた。
「ものすごい誘導感があるわね。」
 
「王子さまにお会いする前に、ひとっ風呂浴びた方が良いですだね。」
「そうね、夫婦愛にヒビが入りそうだしね・・・。」
黒雪は素直に浴場へと向かった。
 
 
「いやっ、汚いーーーん!
 黒雪さまを通過したお湯が黒いーーーん!」
 
「このキイキイ声を聞くと、城へ戻ったー
 って実感が湧くわー。」
キドに遠くからシャワーを掛けられつつ、黒雪がなごむ。
 
 
「ところでキド、おまえ、お継母さまの・・・」
「ああーーんっっっ、ごめんなさーーーい!!!
 悪意じゃないのよん
 あたしは黒雪さまの味方よん!」
 
黒雪の言葉をさえぎって、キドが大慌てで弁解をする。
「別に責めちゃいないわよ、ただ意外だったわけで。」
 
「黒雪さまが鈍いのよん。
 あたしレベルのヘアメイクアーティストが
 何でこんな辺境の国に来なきゃいけないのよん。
 それ以外の目的があるからに決まってるでしょん?」
 
キドの開き直りっぷりに、黒雪は思わず笑った。
「で、おまえはこれからどうするの?」
「え? ずっと黒雪さまと共に生きていくわよん。
 そういう覚悟で来たんだからん。」
 
その言葉に、黒雪はホロリときた。
「キド・・・。」
「あ、そうそう、あたし、ちょっと東国に帰るわん。
 しばらくいないけど、代わりは用意しとくから大丈夫よん。」
 
「おまえ、ずっと一緒と言った矢先に・・・。」
「だーかーらー、一時的な里帰りよん。
 たまには都会に行かないと、流行に遅れちゃうーん。
 すぐ戻ってくるから心配しないでん。」
 
 
まったく、どいつもこいつも策略に忙しそうだけど・・・
パーティーがあるというのに、ひとり部屋で飯をかっ込む黒雪。
 
だってパーティーは飲食の場所じゃなく、社交の場だし。
と言いつつ、パーティー会場でも食うのが、この女なのだが。
 
 
と、そこにいきなりドアが開いた。
「奥さまーーーーーー!」
駆け込んできたのは王子である。
黒雪は反応すらしない。
王子と黒雪のテリトリーは、お互いにフリーパスである。
 
ガツガツと飯を食う黒雪の首元に
王子がしがみついて、スリスリする。
「会いたかったですよーーー。」
黒雪は口をモグモグさせながら、ただうなずいた。
 
「ひどいっ!
 私は朝から晩まで、あなたの事ばかり想っているというのに
 あなたときたら、食べるわ寝るわじゃないですかっ!」
 
食って寝ないと死ぬんだけど・・・
そう思いつつ、黒雪がなおもパンを頬張った時に
痴話ゲンカの予感がしたのか、メイドが部屋を出て行った。
 
 
(で? どうだった? これからどうするの?)
黒雪が、デザートのタルトにかぶりつきながら
眉と目だけで王子に訊いた。
 
王子は黒雪のそのジェスチャーに、少々落胆した。
まあ、今回は訊きたい事はひとつでしょうから良いですけどね
この人がいつも食べる事を優先させるのを
ちょっと納得できない男心も、少しはわかってほしいですよね・・・。
 
 
王子は黒雪の額にキスをした。
 
「すべて順調ですよ。
 私の心以外はね・・・。」
 
 
 続く 
 
 
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