「いやあ、すまなかった。
最近の記憶がまるでないのだ。
先日の夜会に出る前に、転んでしばらく気を失ってたらしいんで
わしの乱行は、そのせいだと思う。
皆、心配をかけてすまなかった。」
パーティー会場に現れた王の言葉に
大臣や貴族たちは喜んだが、黒雪の腹の中は違った。
ばかじゃねえの? 頭打って謀反しようとしてんじゃないわよ。
私の実父だったら、即座に返り討って死刑だわよ。
そもそも記憶が飛んだら騒乱を起こす、って
普段どういう考えを持ってんだか。
この王があまりに国のタメにならないんなら、暗殺するわよ、私は!
「だが王子の献身な看病で、わしは治った。
今宵の宴は王子のために!
皆、存分に楽しんでくれ。」
王の号令に、楽団が曲を演奏し始める。
途端に王子が人々に取り囲まれた。
「さすが王子さま、よくぞ王さまを看病してくださった。」
「鉱山も見つかったし、国も着実に発展しているのは
すべて王子さまのお陰。」
「仲睦まじいお妃さまと、お世継ぎにも恵まれて
我が王国は、これで安泰ですな。」
王子がチヤホヤされている間に
王がパイを食べている黒雪に近付いた。
「踊っていただけるかな?」
「あ、はい、喜んで。」
慌ててワインをガブ飲みして、パイを無理に飲み込んだ後
王の手を黒雪は取った。
「して、今回の探索では何か見つかったかな?」
「いえ・・・、残念ながら収穫なしでしたわ。」
「そうか、まあ、そういう時もある。」
「申し訳ございません・・・。」
と言うか、今回はあんたを正気に戻すのにおおごとだったのよ!
ただでさえ魔物退治で大変なのに、いらん仕事を増やさないでよ!
ニッコリ微笑んでステップを踏みながら、黒雪が脳内罵倒をする。
「あらまあ、珍しい、王さまと黒雪さまが踊ってらっしゃるわ。」
「王さま、何だか少しりりしくおなりになったわねえ。」
ご婦人方のヒソヒソ話に、王子が振り向くと
王と黒雪の流れるようなダンスが目に入った。
黒雪はダンスが苦手で、王子はいつも足を踏まれているのだが
パーティー好きで、踊り慣れしている王は
そんな黒雪を上手くリードしている。
・・・私はダメかも知れない・・・。
王子は、にこやかに話の輪に加わっているフリをしながらも
内心では動揺していた。
望んでいた、人々の賞賛を手にしても
それだけじゃ満足できない・・・。
いや、私がほしいものはそんなものではなかった。
奥さまと一緒にいられれば、それで良かったはずだったのに
いつの間にか、それ以上を望んでしまっている。
何という欲深さなのか・・・。
王が言った。
「どうやら王子は疲れているようだ。
癒してやってくれ。」
王にお辞儀をした後に、黒雪が王子を探すが
会場のどこにも王子の姿がない。
「ネオトス、王子はどこ?」
「少し休むとおっしゃって、お部屋に戻られました。」
私に何も言わずに?
黒雪はテーブルの上のワインの瓶を手に取り、会場を後にした。
続く
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