王子の部屋といっても、たくさんあるのよね・・・
とりあえず、片っ端からドアを開けて覗いてみる黒雪。
王子は寝室にいた。
「あなたが来る事はわかっていましたよ。
どの部屋かわからず、順に確認しながら来るのもね。 ふふ。」
照明も点けず、月明かりだけの部屋で
窓辺に立つ王子が、振り返りもせずに言う。
「どうしたの?」
ゆっくりと近付く黒雪。
王子が突然振り向き、黒雪に駆け寄って抱きついてきた。
「ふたりだけで暮らす事は出来ないのでしょうか?」
驚き顔の黒雪に、王子が涙を流しながら訴える。
「あなたとだけだったら、ふたりの距離など気にならないのに
他の人がいるから、その人とあなたの距離が気になるんです
常に誰よりもあなたの近くにいたいんです
この気持ちが、私を醜くしている気がするんです!」
黒雪の胸に顔をうずめて、ワアワア泣く王子。
その背を優しく撫ぜ、頭を抱えてキスをした後に
黒雪は王子の体を抱きしめた。
「王子・・・。」
耳元で優しく呼びかけた次の瞬間、黒雪は王子の体を急激に締め上げた。
「ーーーっっっ!!!!!!!!!」
王子があまりの苦しさに、声も出せずにジタバタする。
ようやく黒雪の怪力から開放された王子が
へたり込みつつも、叫ぶ。
「なっ、何をするんですかっ!」
黒雪が笑いながらも冷ややかな目で
王子の真ん前に大股開きでしゃがんで言う。
「このバカヘビちゃん、よおおおく考えてね?
ふたりだけの世界で、料理は誰がするの?
てか、食材はどうするの? 包丁は?
家は? 板は? ノコギリは? 釘は?
服は? 靴は? 布は? 糸は? 針は?
どの世界でも、ひとりふたりでは生きていけないのよ。
付き合いを減らす事は出来ても、それはそれで生じる問題もあるのよ。」
「私が言いたいのは、そんな現実的な話じゃなくて・・・」
「ふたりの愛は現実じゃないの?」
「ち、ちが・・・、そういう事じゃなくて
私はあなたに、もっと愛されたいんですっ!!!」
「・・・ほお・・・?
私の愛が足りないと・・・?」
右手で持っているワイン瓶を
ピシャンピシャンと左の手の平に叩きつけながら言う黒雪に
王子はゾッとさせられた。
「そ・・・、その瓶は何なんですか?」
「ん? ああ、今度はあなたがトチ狂ってたら
これで殴りつけて正気に戻そうかと。」
あはは、と笑う黒雪に、王子がおののく。
「そうやって暴力で脅すのは止めてください!
そんなんだから、私が不安にさいなまれるんですよ!」
「うそうそ、あなたを倒すなら素手で充分でしょうよ。
今回はあなたの方が大変だったから
ゆっくり飲ませてあげたかったのよ。」
「ええ~~~・・・?」
黒雪は疑う王子を抱きかかえて、ベッドへと運んだ。
「グラスは?」
「あ・・・・・・、いや、別にいらないでしょ。」
黒雪はワインをラッパ飲みした。
絶対に殴る用だ!!!!!!
さっきの近寄り方も、殺気が漂ってたし
締め上げも、冗談とは思えないほど苦しかった!
ビビって少しずつ体を離そうとする王子に構わず
黒雪がキスをしてきた。
王子の疑惑も、その黒雪のワイン口移しでふっ飛ぶ。
「い・・・いつの間に、こんな高度な誘惑テクニックを・・・。」
両手で口を押さえ、真っ赤になってウロたえる王子に
黒雪は内心ほくそ笑んだ。
オロチも酒浸りにして退治するものだし
ヘビ系統には、やっぱ酒よね。
窓に揺れる葉のない木の陰が、少しずつ薄れてきた。
月に雲が掛かってきたのである。
海の方から少しずつ雪雲が降りてきて
北国は、これから長い長い冬に入る。
人々が寄り添って過ごす季節。
王子とその妃も、お互いを温め合って暮らすのだ。
雪深い北の果ての国で、ジークという名の王子と暮らすならば
いつか本当に巨大な竜を相手に
命がけの酒作戦を、遂行せねばならない日が来るかも知れない。
だけどそんな時でも、きっとこの王子の妃は
喜び勇んで立ち向かって行くのであろう。
終わり
関連記事 : 黒雪伝説・王の乱 24 11.10.12
黒雪伝説・王の乱 1 11.8.4
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黒雪伝説・王の乱 25
Comments
“黒雪伝説・王の乱 25” への10件のフィードバック
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黒雪シリーズチョー面白かったです。
つーか黒雪が、、外見を除けば、私みたい。。
やっぱし黒雪はヘビ王子みたいのが合うんでしょうね。。
私の好きなタイプは、黙って俺についてこい的な男なんですが、好きなタイプと合うタイプが必ずしも一致しないことも経験上よく知ってますので、ヘビ王子みたいのと付き合ってみましたところ、11年続きましたんですが、つい3ヶ月前に破局しました。。あははははははのは。 -
una・・・、戸籍に箔はついたか?
まだまだ若いな、ふっ・・・。
私も好みは、黙って俺に、だったけど
黙ってられないヤツに限って、それを言う!今では理想は “何事も程々なヤツ” だよ。
いいよ、もう。
どうせ現役時代から、愛だ恋だはヘタだったし。ちなみに、ジークフリートの話は
舞台がドイツだったようで・・・。ドイツだって緯度的には
間宮列島ぐらいにあるんだから
“北の果て” で良いよね! -
えへへ。。
私だいぶ前から戸籍の筆頭者であります。
子どもの頃からずっと親に虐待されていたので、若いうちに東京に逃げてきて、あるときガマン限界MAX超えて勝手に籍抜いて本籍地も今の住所に変えたのです。
子孫は欲しかったのですが、劣悪なDNAを残すわけにいかないので、結婚も出産もしないのであります。
そう、黙って俺に男とつきあうと、同じタイプなんで日常的に絶対にぶつかるんですよねえ。
でもなんか、恋愛系はもうめんどくさいからいいや。
えへへ。 -
una、おお、えらいな荒波人生ー。
虐待とかDVとか、日常的に受けてると
「自分が悪い」 と思い込んで
抜け出そうとしなくなる心理になる事もあるんだってね。
逃げ出したunaの、その強い意志が凄い!血の繋がりは、“一生切れない”
と悩む人も多い中
おめえのその行動力は、福音だと思うよ。素敵な親がいない寂しさはあるけど
だからと言って、ドグラは余計にいらんわな。恋愛かあ・・・。
したくないんじゃなくて、出来ないんだよな・・・。
向き不向きって、あるよね。うちの血も私で終わるよー。
分家の分家だから、続く必要もないけど
不思議と絶える方向に行っちゃったんだよねえ。何だか、運命を感じてワクワクだよ。
地獄には堕ちたくないなあ。 -
あしゅさんさすがわかってる。。
毎年、年末や夏になると「実家には帰るんですか?」っていう質問、あれほんとにめんどくさいんですよね。前は「いや帰るっていうか、、帰るとこじゃないんで、、モゴモゴ、、」みたいに答えてたんですけど(そんな質問するくらいだから私の事情を知らない人なわけで、そんな薄い関係の人にいきなり虐待話とかヘビーだし)「ご両親心配してるでしょ?」なんてどんどん話を広げてくれようとするもんだから「いや親とは疎遠で、、」とか濁すと必ず「若いからわからないかもしれないけど、親孝行はしたほうがいいよ」なんてしたり顔で言われるという、、ああ私だって普通の親ならいくらでも親孝行したかったさ、おめえもいっぺんあいつらから生まれて虐待されてみろよそれでもそんな型にはまったセリフ言えるんならそのとき聞いてやるぜ、と何度思ったことか。
それからは、その手の質問がくると「あっ私、虐待されて逃げてきたんで帰るとこは今の自分ちだけです」と言うようにしたら、見事に話そこでストップすることに成功。
しかしあるとき「えっ?(@▽@)虐待?どんな?暴力?お金?どんな?どんな?(ワクワク)」みたいなこと言ってきたバカモノがいたので、今は「あっ私、実家ないんで」と言うようにしています。
するとだいたい皆「?、、あ、そうなんですね、、???」と煙に巻かれてくれます。でも、逃げてきてからもしばらくは、親とは関係ない出来事でも何かあるとすぐに必要以上に「私が悪いんだ」「私さえガマンすれば」みたいな思考が抜けなかったり、何度も死のうとしたり、フラッシュバックで動悸や過呼吸なったり、精神病院(精神科でなくてモロ精神病院)へ行ったり、人知れず苦しんでいたんですよ~。
その反動か、すっかり何様気質になりましたけども。
「私が悪いんだ」な思考は確実になめられるんですよね。
なめられないためにまず、私は眉毛の形を変えたんです。
これは効果てきめんでした。
もともとの眉はアーチ眉というか丸みを帯びた形だったんですが、ちょっとビックリすると下がり眉になるんです。あれダメですね。
それを、眉頭から眉尻に向かって一直線に上げてちょっと下げるみたいな何眉っていうのか知らないけどそしたら強い人だと思われるようになりました。私、思いやりって想像力だと思っているんですが、あしゅさんはやっぱり思いやりのある人だなあ。
これからもよろしくですm(__)m -
una、ああ・・・、わかる気がする。
私はオープンな性格なんだけど
やっぱり訊かれたくない事もあるよね。
そういう空気を察しないアホウっている!!!私も大概、愚鈍だけど
自分を棚上げして、相手を責めるよ。
だって、トラウマがあるヤツって
「私が悪い」 と、自分を責める方に
つい行ってしまうじゃん。私は今、相手を責める練習をしている!
え? それで? って思われるだろうが
そう、これでもだ!!!眉毛だけでも、気持ちが変わるし
相手に与える印象が変わるよね。
だから、人間、見た目なんだよ。どう見られたいか。
私が軍服好きなのは
自分を鎧で守りたいからだ。
騎士がいようが、一個大隊持ってようが
私も私を守りたいんだよ!!!という事で、2012年もギスギスと
グチの言い合いをよろしくなー。 -
うん
面白かった♪黒雪と王子のような関係、いいですね~。
途中から王子が玉子に見えてきちゃう私って?(笑)
ファフェイの話し方、好きかも~。こういう設定でのお話、読みやすくて好きです。
今回も楽しませていただきました!
ありがとう! -
えっ、まありちゃん、もう帰っちゃうんか?
次の話も、黒雪姫シリーズの予定だよー。
“かげふみ” がいつ終わるか
まだ予定がつかない状況だけど。次の黒雪姫シリーズの話は
ちょっと違う雰囲気のを考えてるんだ。多分、私の書きたい系統の話はそれだと思う。
期待して!あ、それなりに、それなりにねー。(逃げ腰)
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わーいw
続くんだぁ!いや風呂でつらつら考えてたの、まだまだ続きそうだなぁって。
期待して待ってます!!
そうそう、眉の書き方ひとつで印象から自分の気持ちまで変わるよねぇ~、ってunaちゃんとのお話に時間差で参加。
男の人は、自分を良く見せたいからお化粧するんでしょう?って聞くんだけど、私は違うと思う。
見せたい自分、なりたい自分に作り上げてるって言うのが私のお化粧なんだよねぇ。
だから気分が乗ってるときはついつい顔を作りすぎちゃう(笑) -
まありちゃん、同感。
私もメイクは自己満足でだよー。んで、男性より女性からの評価が恐いんで
身だしなみが大事な場では、女性の目を気にして装うよ。だって男性は、漠然とキレイに可愛くしてりゃ
追求してこないじゃん。
でも女性はものすごくシビアに観察する。口紅の色数が、あれだけあるのが
女性の飽くなき探究心の証拠だよ。
小さな “似合う”“好き” をコツコツ積み重ねる。男性って、「全部同じ色にしか見えない」 って言うだろ。
全体的な雰囲気で捉えるせいか
細かい美容の気遣いに興味がないんだよね。もちろん、恋愛勝者になるために
メイクを利用する人もいる。メイクは女性の女性による女性のための
自分演出のひとつだと思う。
女性が着飾るのは
色気づいているのが、すべてじゃないっ!と、ババアが言うんだから、間違いない。
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