マリーはグリス付きのメイドである。
母親のように愛し、世話を焼いてくれる。
長老会から派遣されているのは
語学の教師、基本教育の教師、礼儀作法の教師である。
専属護衛のリーダーはタリスであった。
「まだお小さいのに、勉強など・・・。」
という意見は、主の
「普通の子供と同じに考えてもらったら困ります。」
というひとことで、かき消えた。
この館で主に逆らえる者など、いや結構いるんだが
主の “館第一” という気持ちに逆らう者はいない。
主がそういう生き方をしてきて、現実に結果を出しているからである。
グリスには、遊びの時間も教育の一環となった。
そんな、子供にしては多忙なグリスだが
一番楽しみにしているのが、運動の時間だった。
その理由は、担当がラムズだったからである。
彼は館に来た頃の主と、実際に接触した人物のひとりで
運動の合間合間に、あれこれと話してくれるのだ。
グリスは主のその “武勇伝” を聞くのが大好きだった。
「主様はな、そりゃ勇ましかったんだぜ
警棒をシュッと出して、こう構えてな。」
身振り手振りで、当時の事を語ってくれるラムズ。
「・・・ただな、ヌケたところもあって、出した警棒をしまえないんだよ。
あれには笑ったね。」
ラムズの話から、当時の館が戦場であった事をうかがい知る。
その喧騒のさなか、主が勇ましく進む。
旗を持って軍を先導するジャンヌ・ダルクの絵画のように。
グリスがそこまで主を美化していたのには理由があった。
ほとんど主の姿を間近に見られないのだ。
「お忙しいお方ですから・・・。」
それが周囲の常套句だったが、自分が避けられている気分であった。
その証拠に、長老会のリオンはしょっちゅう主の部屋に来ている。
だけどスネるわけにはいかない。
屋根がある居場所と温かい食べ物を与えてもらっているのだから
それだけでグリスにとっては、感謝して余りある事で
その上に我がままなど言えるわけがない。
「一生懸命お勉強なさっていれば
その内に主様の右腕として、一緒にお仕事ができますよ。」
その言葉を支えに、グリスは勉強に励んだ。
グリスは子供だったが、自分の立場をわきまえていて
そこは確かに “普通” の子供とは違っていた。
「主様にはいつ会えるの?」
何度となく言ったこの言葉は、グリスの胸の奥にしまいこまれた。
続く
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