グリスは毎日、主の演説を聴きに講堂に通っていた。
それを主も確認してくれているようで
お互いに遠目ながら、目が合う瞬間は日に一度はあったわけで
それだけでも、何となく見守られている気分になるのが嬉しかった。
そんなある日、偶然に廊下でグリスは主とハチ合わせた。
「こ・・・こんにちは、主様・・・。」
顔を真っ赤にしてモジモジとしながらも
はっきりと挨拶をするグリスに、主は驚いて言った。
「こんにちはー。
・・・って、あれーっ? 英語を喋っているー!」
護衛のタリスが呆れて言う。
「1年ほどで普通に喋れるようになられたんですよ。」
主は、う・・・ と動揺した。
「もしかして、私、ネグレクトしていますかー?」
「しておられますねえ。
もう7歳なんですよ、ご存知でしたか?」」
「えー? あ、ああー、そうなんですかー・・・。」
グリスの歳も知らなかった主は、考え込んでいた。
その様子を、ジッと見つめるグリス。
「・・・?
・・・この子は何でこんなに私を凝視しているんですかねー?」
「ああ・・・、何故だか主様がお美しく見えるようで。」
タリスは無意識にむちゃくちゃ失礼な言い方をしている。
「えっ、マジでー?
教育係は何をしてるんですかー?
正しい審美眼を持たせないとダメじゃないですかー。」
どうやら主の自分評価は冷静なようだ。
「グリス、口裂け女のような事を問うけど、私キレイですかー?」
主の質問に、グリスは一層モジモジしながら答えた。
「・・・主様は他のどんな人よりもお美しいです・・・。」
「こ・・・これは子供特有の何かですかねえー?
目の検査とかしていますかー?」
「健康診断は定期的に行っていて、何も問題はないそうです。
主様に滅多に会えないから、お寂しくて
極端に美化していらっしゃるんじゃないでしょうか。」
タリスの無礼極まる言葉にまったく動じない主。
「うーん、子供と接するの、きっついなあー。」
その会話を聞いていたグリスが、不安そうに訊いた。
「主様は私がじゃなく、子供がお嫌いなんですか?」
その言葉は、益々主を反省させた。
「グリス、あなたの事を嫌っているわけではありませんー。
私は子供が嫌いなだけですー。」
「どうしてですか?」
「子供は、空気を読んで私に気を遣わないからですー。
たまに気を遣う子供もいますが
気を遣っている様子を私に気付かせるので、イヤなんですー。」
「・・・何という理由ですか・・・。」
呆れ果てるタリスだったが、グリスには希望が見えてきた。
「では、私は主様の望む子供になります。
だからどうか、お側に置いてくださいませんか?」
「そうですねー、では通常教育をしっかり身につけて
うーん、13歳ぐらいになったら私の仕事を学びに来てくださいー。」
「あと6年・・・。」
うなだれるグリスを見て、タリスは主を睨んだ。
こんなに慕っていらっしゃるのに、主様ときたら・・・。
主はタリスの目を気にしつつも、グリスに語りかける。
「グリス、ちょっとよく聞いててくださいねー。」
そう言うと、タリスに向き直った。
「タリスさん、私はキレイですかー?」
突然の、しかも答えにくい質問に、タリスはパニくった。
今更なのは、主もタリスも気付いていない。
「え? あ、いや、その、人間にはそれぞれ魅力というものがあって・・・」
「そういうキレイ事じゃなくー!! 正直にー!!!」
主の剣幕に、タリスはつい本音を叫ぶ。
「NO! サー!」
つい勢いで言ってしまい、アタフタするタリス。
すぐ冷静さがなくなるところは相変わらずである。
普通に考えたら無礼討ちものだが、主はグリスに諭すように言う。
「いいですかー? これが世の中の意見なのですよー。
あなたはまず、一般的な感覚を学ばねばなりませんー。
それが私の教えを受ける前準備なのですよー。」
「主様をお美しいと思う気持ちは間違っているのですか?」
「間違ってはいないけど、変質者ですー。」
「主様、子供相手に何て事を!」
タリスは、やはり主に子供の教育は任せられない、と思い
主は、まったく今時のガキはわけわからん、と思い
グリスは、主様はお美しい上に論理的だ、と、うっとりしていた。
続く
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Comments
“かげふみ 3” への1件のコメント
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その質問さ、勝手に
お便りコーナーに移して
今日の記事にするから。だから、コメントも削除したよ。
ごめん!
けど許して!!!だって相変わらず、お怒りのお便りしか来なくて
私の人徳のなさが露呈しそうなんだよー。
協力してくれよー。
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