かげふみ 4

さすがにちょっとは反省しとんのか、主が道場にやってきた。
グリスの今の時間は、ラムズの運動の時間だからだ。
 
ラムズの本職は大工だが、主の改革の際に敷地内に道場を建てて
そこで自己流の武術などを希望者に教えているのである。
ま、早い話が、マニアの押し付け教室である。
 
 
「よお、主様、珍しいじゃねえか。」
ラムズとは結局あれっきりで、ご無沙汰である。
 
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「久しぶりですねー。」
「いや、俺はちょくちょく講堂にも行ってたぜ。
 陰ながら応援してたんだぜえ?」
「それはありがとうございますー。
 ところでグリスの・・・、あっ、あれは三節棍じゃないですかー!」
 
壁に掛かっている武器の中から、目ざとく見つける主。
「おうよ、あれからすぐ作ったんだけど
 あんたはもう戦わない、って聞いたんでな。
 渡さずに自分で練習してたさ。」
 
「そうだったんですかー。
 で、どうですかー? 使い心地はー。」
「確かにトンファーよりは便利だな。
 攻撃範囲がかなり広がるぜ。
 ただ、相手に止められるとちょっと苦戦するが、その場合は・・・」
 
 
話し込んでいると、後ろでかすかに気配がした。
ふたりが振り向くと、運動着に着替えたグリスが立っていた。
「あっ、お話の途中で申し訳ございません。
 私の事は気にせずに、どうぞお続けください。」
 
「おう、すまんすまん、じゃ、最初はランニングな。
 おーい、タリス、今日はおまえだけで付き添ってくれー。」
 
 
タリスがグリスと一緒に出て行った後に、ラムズが言った。
「で、今日は次期様の様子を聞きに来たんだろ?」
「ええ、そうなんですよー。
 どうも妙な感覚を持っているようなんで、ちょっと気になってー・・・。」
 
「ああ、あんたをキレイだとか言うたわごとだろ?」
何故すぐに言い当てる? ラムズも大概、失礼なヤツである。
 
 
「あれはな、心配いらんよ。
 ほら、ヒナが最初に見た物を親と思い込むだろ
 あんなようなもんじゃねえのかな。」
 
「ああーーー、なるほどーーーーー!!!」
主が大納得して、左手の平を握りしめた右手でポンと叩いた。
 
「いやあ、詰め込み教育の弊害かと心配しましたよー。」
「次期様は心配いらないんじゃないのかな。
 大人並みにしっかりしてるぜ。」
 
「あの歳で大人レベル、って大丈夫ですかねー?」
「逆に、次期様が幼稚だったらマズくないかい?」
「それもそうですよねー。」
ラムズと主は、同時にはははと笑った。
能天気なふたりである。
 
 
「んじゃ、また来ますー。」
「おう、マジでちょくちょく様子を見に来てやんなよ。
 次期様がグレるとしたら、あんたの放置のせいだぜ?」
うっ・・・、と言葉に詰まりながら、道場を後にする主。
 
その数分後に、ランニングを終えてグリスが戻ってきた。
「主様はっ?」
あたりをキョロキョロしながら、珍しく大声を出すグリス。
 
「もう帰ったよ。」
「・・・そうですか・・・。」
うなだれるグリスを、ラムズが慰める。
「まあ、そうしょげんなって。
 また来る、って言ってたからさ。」
 
「・・・それは本当なんでしょうか・・・
 主様の事は、講堂以外では拝見する事すら出来ないのに・・・。」
 
ラムズがグリスの頭をポンポンと叩く。
「あんたの事を気にかけてたぜー?
 ちょくちょく来るように言っといたからさ。」
グリスの顔がパッと明るくなった。
 
 
「それにしても、ラムズ先生は主様と本当に仲良しなんですね。
 主様が熱心に先生とお話してらっしゃってましたし。」
「おう、そうよー。
 主様とは初対面の時からウマが合う、っちゅうか、意気投合したもんなー。
 この武器は三節棍って言うんだけど、主様が勧めてくれたんだぜー?
 俺はトンファー、ってこっちのこれだけど、当時これを使っててな・・・」
 
ラムズが活き活きと武器の説明をするのを
先ほどの主のように、聞き入るグリス。
 
 
こんな授業が何の役に立つのか、はなはだ疑わしいもんだが
主の話を聞くのが、現在の一番の楽しみであるグリスにとって
ラムズの授業は、待ち遠しくてならない時間であった。
 
 
 続く 
 
 
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