かげふみ 9

「おお! 次期主のお出ましでーすかあ。」
主の後ろからおずおずと顔を出したグリスを、リオンは大歓迎した。
 
「ようやくお顔を見せてくれまーしたねえ。
 ささ、一緒に遊びましょーう。」
 
グリスにコントローラーを渡そうとしたリオンを、主が止める。
「あー、だめだめー。 この子にゲームはさせないからー。」
「え? 何故でーすかあ?」
 
リオンの質問に、主がサラッと言う。
「ゲームなんぞしとるガキは、ロクな大人にならないからー。」
 
その意見に、意外な事にリオンも同意した。
「ああー、そうでーすねえ。
 私は地位とお金と自制心があるから、廃人にはなっていませーんが
 平民には危ない中毒性のある遊びでーすもんねえ。」
 
 
いつも会議でニコニコしているだけのリオンしか見ていなかったので
この発言に、激しく驚くグリスに主が言った。
 
「このドバカも、人前でのこういう発言は一応は控えているんで
 暴言を吐かれる事を、ありがたく受け取るんですよー。
 心を許していないと、本音は言わないものですからねー。」
 
「グリスくんとは長い付き合いになりまーすでしょーうから
 ムダな腹の探り合いは省きましょーうねえ。」
 
は、はい、と返事をしたグリスだったが
人間のロコツな裏表を間近に見て、動揺の色を隠せなかった。
 
主様といい、リオンさんといい、何というか・・・直球すぎる
偉い人というのは、皆こんな感じなんだろうか?
 
 
グリスの混乱を見てとったリオンが言う。
「グリスくん、育ちの良い人間というのは、こんなもんでーすよ。
 幼い頃から賞賛されているので、人間の善意を疑わないんでーす。
 自分が疑わない事は人も疑わない、と信じ込んでーる。
 自分に悪気はないから、人に悪く取られたりしなーい、とね。
 私ほどではないにしても、主も育ちが良いお嬢さんでーすしね。」
 
その言葉に主が異論を挟んだ。
「ちょお待てー。 私は一般家庭の出だぞー?」
「ふふーん、あなたのその無邪気な残酷さを見れば
 育ちの良さは、すぐわかりまーすねえ。」
 
即座に答えたリオンを鼻で笑う主。
「へへーん、この国と比べれば日本人は皆、裕福なんだよー。」
 
「ああー、そういう事でーしたかあ、なるほーど。
 では、あなたのその性格は、無知な庶民がたまに持つ
 根拠のない全能感というやつでーすねえ?」
 
「・・・おめえのそういうとこ、ほんっと好きだよー。」
主とリオンは、見つめ合って笑った。
恐ろしい光景であるが、グリスの意識は他のところに向いていた。
 
 
無邪気な残酷さ・・・
 
グリスは、自分が主を恐れていた理由がわかった気がした。
何となく感じていたものの形が、くっきりとしてくる。
 
きっとこのお方は、ぼくが去っても追ってきてはくれない。
 
実際に主と縁を切るのは、ごく簡単である。
現に恵まれた祖国を、あっさり捨ててきている。
恵まれた過去を持つからこそ、未来に執着がないのである。
そういう無欲さは、時によって人の繋がりにもヒビを入れる。
 
 
その、たやすい別離の可能性が
グリスには恐くて恐くてたまらなかった。
 
この苦悩は彼の人生に度々現われては、影を落としていく事になる。
 
 
 続く 
 
 
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Comments

“かげふみ 9” への2件のフィードバック

  1. まありのアバター
    まあり

    祝100話目!!
    おめでと~う!!

    これからも楽しみにしてまーす♪

  2. あしゅのアバター
    あしゅ

    まあり、ありがとうーーーーーー!!!

    “○回目” とか、キリ番とか
    まったく気付かない、ザツな私が
    100話目に気付いたのは、かげふみ8のリンクを
    張ろうと、カテゴリーを見たからで
    それも、ものすごい偶然だったよー。

    いつもは記事の上の >> main のとこを
    クリックしてURLを出すのに
    その日に限って、他の記事にコメントを書いたついでに
    かげふみ前回を出しておこう、と
    用意しようとしたんだから。

    こういうのって、運命を感じるけど
    今回は、だから何なんだ? と
    ちょっと意味がわからん偶然だよなー。

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