かげふみ 12

「次期様は大学に編入なさるそうですよ。」
執務室のデスクで書類を読む主に、リリーが事務的に報告した。
 
「ああ、そうですか-。」
主の返事は、そっけないものだった。
 
 
グリスは最初の頃は、年相応に街の学校に通ったが
同級生の幼さに失望して、早々に飛び級を重ねていた。
街の学校には車で通っていたけれど
遠い首都の大学では、寮に入る事になる。
 
「外国って凄いですよねー。
 学年飛び越し制度なんて、日本にはないですよー。」
主のグリスに関係ない感想に、リリーが冷たく切り捨てる。
「何度も申しておりますが、ここでは日本が “外国” ですけどね。」
 
 
大学でのグリスは、年上のクラスメートを持ち
ようやく勉強のレベルにも納得できる生活を送っていた。
 
年齢的には子供だったが、急激に伸びた身長と
しっかりした性格がにじみ出る顔つきで、大人びていたので
皿洗いで入ったカフェのバイトも、接客を任せられるようになった。
 
館を出ての1年間は、主に会えない辛さにベッドの中で毎晩泣いた。
そんな寂しさも、勉強にバイトにと打ち込む内にどんどん薄れてきた。
 
だけどそんな忙しい日々の中でも
主を思い出しては、孤独にたまらなくなる時があり
たまに沈み込んでしまう。
 
その憂えた様子と端整な顔立ちで
グリスは女の子たちに人気があった。
 
 
付き合ってくれ、と自分より年上の女の子がくる。
その瞳を見る度に、主と比べてしまう自分が情けなかった。
 
主様はこんな媚びた目はなさらなかった。
あのお方は、いつも頭上からヘビのような冷たい目で見下ろし
ぼくの存在などないかのように、そっけない態度でいらした。
ぼくは、そんな主様を見つめているだけで幸せだったのに・・・。
 
 
そんな未練タラタラの自分が腹立たしい半面
その気持ちを大事にせずにはいられない。
 
主様はぼくのこんな気持ちを、きっと鼻でお笑いになるだろうな
そういうお人だ。
あのお方にもローズさんという存在がいるのに。
 
 
告白を断る度に、こんな考えをしてしまい
落ち込み、その夜はまたベッドの中で泣くのだ。
 
そんなグリスの心情を知らず、クラスメートがからかった。
「おい、グリス、モテるのに何故恋人を作らない?
 おまえ、やっぱりまだまだガキだな。」
  
そんな挑発にも乗らず、グリスは目を伏せて答えた。
「忘れられない女性がいるんだ・・・。」
 
 
その言葉は、瞬く間に女生徒たちに駆け巡り
悲恋っぽいその様子に、歓喜すら沸き起こり
グリスの評判は逆に上がった。
 
若い女の子なんて、魔物のようなものである。
その不可解な反応に、グリスは動揺させられ
益々主の事が恋しくなる、という悪循環。
 
 
グリスが若い女の子に翻弄させられながらも、学業にいそしんでいた頃
長老会会議では、ジジイが主に詰め寄っていた。
 
「グリスがもう3年も帰ってこん!」
 
 
 続く 
 
 
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