「はあー・・・。 でー?」
主がポヤンな返答をすると、ジジイが噴火した。
「跡継ぎが何年も帰ってこんのを、何とも思わんのか!」
主が、はあ? と言うような表情をした。
「何、言ってんですかー。
最初にグリスに通学を勧めたのは、あんたでしょーがー。」
ジジイは、ボッフンボッフンと煙を出しつつ怒鳴った。
「そうじゃ!
わしは “通学” を勧めたんじゃ!
寮に入って帰って来んなど、許した覚えはない!!!」
まったくもう・・・、年寄りの我がままは・・・
と思いつつ、(主にしては) 丁寧に解説する。
「それはあんたの勝手な思惑でしょうがー。
グリスの学力を活かす学校が、首都の国立だったんですから
そこで学ばせてあげないで、どうするんですかー。」
「それはそうじゃが、館にまったく帰らんのはおかしい!
クリスマスも感謝祭も子供が帰ってこんのは
この国では普通じゃないんじゃぞ!
グリスはもう館に帰ってこないつもりかもしれん!」
涙目のジジイに、主は困り果てた。
「グリスに跡を継ぐ気がないなら、それも仕方のない事かとー・・・。
それに関しては、対策を考える必要がありますよねー。」
「あんたはグリスが可愛くないんかっ!」
真っ赤になって怒るジジイに、主がひるむ。
「えー・・・、いやあ、そういうわけではなくー
本人の意思を尊重してー・・・」
「キレイ事を言うでないっ!」
ジジイのさえぎりに、主が見事な短気でブチ切れる。
「この野郎ーーー、ケンカ売っとんのかあー?
3倍値で買うぞ、この腐れジジイーーーっ!!!」
「上等じゃわい、そのクソ生意気なツラをボコボコにしちゃるわ!」
今にも殴り合いを始めそうな、ふたりの激昂に
長老会メンバーたちが慌てて止めに入る。
「ま、まあまあ、冷静に話しましょう。」
「とにかく座って。」
ジジイと主は、睨み合ったまま椅子に座らされる。
「長老会としても、次期主の問題は重要ですから
このまま放置するわけにもいかないのですよ。」
「そうですよね。」
「何年も帰ってこない、というのは、やはりおかしい。」
メンバーたちが、口々に言う。
「どうでしょう、ここらで今一度
跡を継ぐ気があるのかどうか、本人に確認してみる、と言うのは?」
主が憮然とした態度で言い放つ。
「そう思うんだったら、そうすりゃ良いじゃないですかー。
何で私が怒られなきゃいけないんですかー?
長老会でさっさと訊いてくれば済む話でしょうにー。」
その投げやりな言い草に、ジジイがガッと立ち上がり
それを左右のメンバーがすかさず押さえる。
小太りの紳士が、穏やかに言う。
「ですがね、グリスくんには税金が使われているんですよ。
やりたくない? ああ、そうですか、というわけにはいかない。
出来るだけ、本来の予定に従ってもらうように
努力しなきゃいけないんですよ。」
その言葉に主も我に返った。
「あー・・・、そうでしたー・・・。」
「そこで2~3、お伺いしたいんですが
主、あなたはグリスくんと上手くいっていましたか?」
「えー・・・? まあ、そこそこー・・・?」
主の答にジジイが ウソつけ! とつぶやき
主がカチンときて、グワッと椅子から立ち上がったところを
リリーとメンバーのひとりが押さえた。
「グリスくんから連絡はありますか?」
「アドレスー・・・、教えていませんー。」
「何じゃと? 何故教えない?」
ジジイの怒声に、主がしどろもどろに言い訳をする。
「だって訊かれなかったですもんー。
そんなん、他の人からも訊ける事だしー
私のPCや携帯は仕事用だからー
私に連絡を取る方法なんて、いくらでもあるしー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
皆の視線が集中した主は、黙り込んだ後に叫んだ。
「すいませーんーーー、ほんっと、すいませんーーーーー。」
頭をテーブルに押し付けて詫びる主に
ようやく溜飲が下がったジジイが、穏やかに語りかけた。
「正直言って、あんたはグリスが苦手なんじゃろ?」
その図星に、主は観念した。
「その通りですー。
あの子の、“お慕い申し上げビーム” が
ほんっと、うっとうしかったんで、いなくてホッとしてましたー。」
その正直すぎる言葉に、今度はメンバーたちに火がついた。
「あの子を連れてきたのは、あなたでしょうが!」
「子供が母を慕う気持ちをうっとうしいとは何事です!」
「あんな良い子を・・・。」
「そうですよ、良すぎるぐらい良い子なのに・・・。」
「きみには母性というものがないのかね?」
さすがに己の非を認めて、小さくなって言われ放題されている主。
助け舟を出したのは、意外にもリオンだった。
「皆さん、もう、そのぐらいで良いでしょーう。
主も反省しているようでーすし、珍しーく (笑)」
この、かっこ笑いとじかっこ が癇に障って
止めに入ってくれたリオンに素直に感謝できない主。
メンバーたちは、まだまだ言い足りなかったが
立派な大人なので怒りをどうにか静めて、話し合いの体勢を立て直した。
「それで、どうするのかね?」
主は、簡単に言った。
「要するに、グリスを連れ戻せば良いんですよねー?」
「「「 そんなにたやすく出来るのかね! 」」」
いぶかしがるメンバーに、主は先程の反省していた態度もどこへやら
不適な笑みを浮かべた。
続く
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