「主はいつもセンターより脇ラブなんでーす。
ビジュアルのみで選んでいるようでーす。
だけど、お気にっ子が役に立たないと
そりゃもう、冷遇するんでーす。
パーティーから外したり、クズ装備を回したり。
他の眼中なしキャラには、能力を冷静に見て
的確な操作をするんでーすが
ビジュ萌えのキャラには、やたらマゾらせるんでーすよお。」
はあ??????? と、口をポカーンと開けるメンバーたち。
「今の説明の意味がわかったかね?」
「いえ、聞き慣れない単語が多数で・・・。」
リオンは、やれやれ、と癇に障る首の振り方をした。
「要するに、主は仲間や友人に対しては
公平で誠実で素直で、実に良いヤツなんでーす。
だけど一旦、自分の恋愛対象として見なすと
我がままになり、厳しい要求を突き付けまくるんでーす。」
「何っ? じゃあ、わしは主の恋愛対象かねっ!」
ジジイが叫んだ。
「まさか。 主は見た目のみで選びま-すからねえ。」
リオンが薄ら笑い、ジジイがムッとしたところで、将軍がハッとした。
「知的イケメン!」
「そう、それでーす。
線が細く、あっさり顔のクールな美形
それが主のブレない萌え要素でーす。」
メンバーたちは、ボソボソと言い合った。
「じゃあ、グリスは主の好みから外れていますよね。」
「たくましく爽やかに育っていますしね。」
「ところがどっこい!」
リオンの言葉に、全員がドキッとする。
「悪い知らせでもあるのかね?」
「はーい。
これは主が実際に言ってた事なんでーすがあ
主には “恋愛スイッチ” というのがあるそうなんでーす。
それは自分でもどこにあるのかわからず
普段はOFFになってるそうなんでーす。
どうも自分ではONに出来ないみたいだそうでーす。」
「ならば問題ないじゃないか。」
なあ? と、うなずき合うメンバーたち。
「それが大ありなんでーす。
相手がストレートに告白してきた時に初めて
その恋愛スイッチがONになるそうなんでーす。
で、YESかNOか、そこで考える。
NOの場合も、恋愛スイッチは解除されないので
その相手は嫌悪の対象になるそうなんでーす。」
「ちょ、ちょっと待て、とすると・・・。」
「そうでーす。
主は自覚してはいませーんが
グリスくんの好き好き全開オーラに、無意識に恋愛スイッチが入って
嫌悪しているようにも思われまーす。」
「それが事実だった場合、相続はどうなるんだ・・・。」
「いや待ってください、もし主とグリスが恋愛関係になった場合でも
結局はグリスくんが主を憎む事になるんですよ?」
「どっちに転んでも、最悪の関係にしかならないじゃないか!」
絶望感が漂う中、ひとりのメンバーがはたと気付いた。
「なあ、それで何故、グリスが戻ってくるとわかるんだね?」
「おお、良い質問でーす。
実は主のこの恋愛観は、もう私が何気なく
グリスくんに伝えているんでーすよ。
グリスくんはこの事もあって、主と距離を置いたのかも知れませーん。
その彼が戻ってくるならば、覚悟はしているはずでーす。
グリスくんにはわかるはずでーす。
主が、嫌悪する相手を迎えに行くのが、とてつもない奇跡である事を。
そしてそれは、主にとっての自分の価値が揺るぎないもの、と
大いなる自信となりまーす。」
ほお、と感心する一同に、リオンは鼻高々だった。
「この私がただ遊びに通うだけなど、ありえませーんねえ。」
「すみません、ちゃんと教育したつもりだったんですが・・・。」
リオンの父であるダンディーな紳士が、皆に詫びる。
「いや、気にしないでください
子供など、どう育つかわからないものですから。」
「そうですよ、うちのも本当に・・・いやはや・・・。」
慰め合う、子育てに失敗した父親たち。
「まあ、とにかく、この件に関しては
リオン殿の功績は大きそうではないですか。」
「そうですな。
主も渋々ながら、連れ戻しに行ってるんですし。」
「館第一の主だから、館を混乱させるような事はしないでしょう。」
やっと安堵の空気が流れ始めたのを打ち破ったのは
状況を読んで功績を上げたはずのリオンだった。
「と言っても、どう転ぶかわからないのが
“恋” というものでーすしねえ。」
「わしらはどうすりゃ良いんじゃ!」
ずっと無言だったジジイが、とうとう怒り始めた。
娘息子のように可愛がっているふたりが
妙な具合になっているのが、ジジイには辛くてたまらなかった。
その心中を察して、メンバーたちがうつむく。
さすがにリオンも大人しくなった。
「すいませーん・・・、私にもわかりませーん。」
「グリスが主についてきたのが、最初の出会いだったようだから
主はモンスターに魅入られたのかも知れませんね・・・。」
「あるいはグリスが魔物に惹かれたか・・・。」
会議室には暗い空気が充満し、結局良い対策法も見出せず
後味の悪いまんま、会議はお開きになった。
続く
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