かげふみ 21

数ヵ月後、グリスは館に戻ってきた。
 
メールをもらったジジイが、朝からスキップをしながら来て
うっとうしくウキウキソワソワとしていたので
それを見た全員が、グリスの帰還が今日だと知った。
 
 
館に到着したら、部屋に荷物を運ぶ前に
真っ直ぐに執務室に向かったグリス。
ドアを開けた途端、ジジイが大喜びして迎えた。
ジジイと挨拶をしていると、主が書類を見ながら入ってきた。
 
「主様、ただいま戻りました。」
グリスの声に、主は平然と応える。
「はいー、お帰りなさいー。」
 
棒読みで返事をしつつ、書類から目を上げ
グリスを見た主は、ギョッとする。
育ったとは思ってたけど、間近で見たらこんなにデカいとは・・・。
 
 
見上げる主を見下ろしながら、グリスは感動した。
以前は主様がとても大きく見えたものだ。
でも大人の男性から見ると、主様は細くて小さくてか弱い女性だったのだ。
 
何だか、お可愛らしい
 
そう思ったら、無意識にクスッと笑っていた。
 
 
その “クスッ” が、グリスの運命を変えた。
 
この子もこんなに大きくなったんだから
これからは一人前の大人として、対等に付き合おう
主はデカくなったグリスを見て珍しく殊勝に、そう思ったのだ。
 
なのにグリスがタイミング悪く、“クスッ” などとするから
それが、カチーーーーーンときたのである。
 
 
こいつ、ちょっとばかりデカくなったからと思って
偉そぶってんじゃねえぞ!
 
主はグリスをジロリと睨むと、プイッとそっぽを向き書斎に入って行った。
グリスはこれ以来、主に下僕扱いをされる事になる。
弱い者にももちろん容赦なく強いが
強い者にはより一層牙を向くのが、主の無謀な習性だった。
 
 
ジジイは、主の機嫌損ねの理由も、グリスの “クスッ” の気持ちも
端で見ていて理解できたので、ただハラハラするだけで
何の役にも立たなかった。
 
グリスも自分のウッカリを自覚したが
迷いがなくなって図太くなったのか
とにかく主の側にいられれば、それで良いのだ。
自分のこの変わりように、自分でも驚いた。
 
 
「グリスや、とりあえず着替えておいで。
 それから茶でも飲みながら、話を聞かせてくれんかのお。」
ジジイの促がしに、ようやくグリスは懐かしい自分の部屋へと戻っていった。
 
ジジイが執務室で待っていると、リオンがやってきた。
「グリスくんが戻ってきたんでーすねえ。」
「何じゃ、早耳じゃのお。」
「私も卒業と帰宅の連絡は受けていたんでーすよお。」
 
リオンは、グリスの後見人であった。
グリスが入国する時は、将軍が身元引受人になったが
その後、リオンがひんぱんに館を出入りするため
利便性のため、と自ら後見人を買って出たのである。
 
 
「お待たせしました。」
グリスが部屋に入ってきた。
「おおー、大きくなりまーしたねえ。 何cmありまーすかあ?」
「187cmです。」
 
ジジイとリオンは将軍の見立てに感心した。
グリスに会いに行った時に、遠目でその姿を見て
長老会秘密臨時会議で言っていたのである。
 
「30m先ぐらいの姿しか見ておりませんが
 あれは186 ~ 188cmぐらいありましたぞ。」
さすが軍人は目標物の洞察に優れている。
 
 
「さあ、学生生活の事を聞かせておくれ。」
「お友達は出来まーしたかあ?」
 
ふたりにせかされ、グリスは勉強やバイトや寮の話を
写真や動画を見せながら話した。
その話から、グリスにとって有意義な経験だったと
ジジイとリオンはうかがい知る事ができた。
 
 
 続く 
 
 
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