かげふみ 23

「・・・とは言ったものの、心配でたまらんのじゃ!」
 
ソファーに座って茶を飲みながら叫ぶジジイに
主がマウスをせわしなくクリックしながら答える。
「私も、隠居したはずのジジイが何故いつも目の前にいるのか
 幻覚でも見えてるんじゃないかと、己の視力が心配でたまらんわー。」
 
「ええい! わしが来ると悪いんか!」
「べーつーにーーー?
 グリスが帰ってきて調子づいてるのは構わんけど
 余分な問題をほじくり出されかねんのが恐ろしいだけですよー。」
 
「・・・そうなんじゃ・・・。
 わしも問題が起こるのが恐いんじゃ。」
 
 
カチッ カチカチッ カチカチカチカチカチカチカチカチ
 
「・・・あんたのパソコンは、そんな連打が通じるのかね?」
「・・・・・フリーズしたんですー・・・・・。」
「あんたの操作を見とると、早すぎると思うんじゃが。」
 
「開くのに、いちいち年齢確認をされる、
 画像だらけのサイトしか見ないヤツは
 そりゃ、待ち慣れてるでしょうけどねー。」
主はジジイを横目で睨みながら、電源をブチ切りした。
 
「また、ザツな事をしよる・・・。」
「うっせー! どいつもこいつも同じ事を言うんじゃねー!」
 
ジジイはリリーに訊いた。
「いつもこの調子かね?」
「はい。 先週も電気部に怒られていらっしゃいましたわ。」
リリーは自分のデスクで、フェザータッチでキーを打ちながら答えた。
 
「ふうむ、何に関しても平等にザツなんじゃのお。」
ジジイの妙な感心に、イラ立った主が墓穴を掘った。
「私が他の何に対してザツな事をしてると言うんですー?」
 
 
その言葉に、ジジイが思い出す。
「おっ、そうじゃそうじゃ、こやつと話すといつも脱線する。
 グリスの事なんじゃがの・・・」
「あー、それはそっちで随時適切な処置をお願いしますー。」
 
「ほおら、ザツに扱いよる。」
「そんな事はないですよー。」
 
ジトーッとしたジジイの視線が、主に突き刺さる。
耐え切れず、音を上げる主。
「もうーーーっ、一体何なんですー?」
 
「グリスの女性問題じゃ!」
「あー・・・、それはそっちで以下同文ー。」
 
 
パソコンを再起動する主に、ジジイが詰め寄る。
「逃げるでない!」
「すいませんー、“それ” 関係、苦手分野なんですー。」
 
主の珍しい敗北宣言に、ジジイが胸を張る。
「心配すな、わしもじゃ!
 じゃが、ひとりよりふたり、ふたりより3人
 知恵を出し合えば何とかなる。」
え? わたくしも頭数に? と、チラッと見るリリー。
 
「バカとバカが考えても、バカの二乗になるだけだと思いますがねー。」
主が懲りずにまたマウスを連打しながら、面倒くさそうに答える。
 
 
「グリスが “住民との交流” をするつもりらしいが・・・」
「私の止めとけ提案、無視ですかいー。」
「いいから聞け!
 わしが思うに、それは危険が一杯だと思うんじゃ。」
 
ジジイは、ガッと立ち上がって熱弁をふるった。
「グリスはあの通り、男前じゃ。
 住人の女性が思いを寄せるのは当たり前じゃ。」
 
「グリス、誰かと恋愛してるんですかー?」
「いや。」
「誰かがグリスに片思いをしてるんですかー?」
「いや。」
「・・・妄想、お疲れ様ですー。」
 
「わしが言うとるのは、グリスがいくら純真な気持ちで
 次期主として振舞っても、邪念を抱く女性が出てきて
 トラブルになるやも知れん、という恐れなんじゃ!」
「・・・姑根性、お疲れ様ですー。」
 
 
とことん相手にしない主に、リリーが口を出した。
「主様、元様の懸念は、確かに想定して対処すべき事ですわ。」
ヘ? と、驚く主に、今度はリリーが語る。
 
「裁判にも関わっていた頃の経験から申し上げますが
 レイプや痴漢などの性犯罪が、親告罪なのを良い事に
 中にはフラれたなどの腹いせに、でっち上げをする女性もいるんです。
 次期様がそういう事に巻き込まれないとも限りません。」
 
「ああー、なるほどー!」
犯罪系の話になると、イキイキとする主。
 
「それに、今後の主様方の結婚はどうなさるおつもりですか?」
このリリーの質問に、ジジイと主は顔を見合わせた。
 
 
「私はババアだから、考えた事もなかったわー。」
「わしも、せいぜい覗き見ぐらいで満足しとったから
 家庭を持つ事など、想像もせんじゃったのお。」
 
ロクでもない犯罪告白に、ドン引きする主とリリーをよそに
ジジイは考え込みながら続けた。
「しかし、ここは原則 “ひとり” じゃからのお・・・。」
 
「でも、そういうのは人権上、無理っぽくないですかー?」
主の意見に、リリーが補足をする。
「ここは表向きは、税金でまかなっている元犯罪者厚生施設ですから
 住人たちには、その “ひとり” の原則は適用できますし
 長老会所属の者たちは、館以外へと所属替えをすれば済みますけど
 管理人である主様は、どうしようも出来ませんよ。」
 
 
「ううむ・・・。」
話が意外な方向にいって、悩みまくるジジイ。
グリスは主・命だから、他のおなごとの結婚の心配はないとは思うが
グリス以降の主をどうするか、じゃなあ・・・。
 
「じゃあ、性犯罪冤罪の回避の件も含めて
 グリスを交えて、話し合う事にしましょうー。」
こと館の事となると、主も苦手分野とか逃げてはいられないらしい。
 
「でも、何かうっとうしい予感がするので
 冤罪うんぬんは、ジジイとリリーさんとで
 前もってグリスに忠告しておいてくださいねー。
 私が加わるのは主の結婚設定のみ、という事でよろしくー。」
 
ああ、やっぱり逃げれる部分は、とことん逃げる気だ・・・
ジジイとリリーは、同時に同じ感想を思った。
 
 
 続く 
 
 
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