かげふみ 29

「あの・・・、ありがたいお申し出に感謝いたしますが
 なにぶん急なお話ですので、考える時間をいただけないでしょうか?」
グリスの頼みを、リオンは快諾した。
 
「もちろんでーす。
 だけど急いでくださーいね、結婚も控えていまーすから。」
その言葉にグリスは驚いた。
「恋人、いらっしゃったんですか?」
 
グリスの率直な疑問に、リオンが笑った。
「私たち支配階級の結婚は、大抵が政略なんでーす。
 私も今、貧乏貴族の娘を物色中でーす。」
 
 
「え・・・?」
グリスのとまどいに、リオンが詳しく説明をする。
 
「我が家系は歴史はありますが、元は商人だったんでーす。
 お金はあるけど身分がないんでーす。
 そのために貴族との婚姻で、高貴な血を入れるんでーすよ。」
 
「でも何故、“貧乏貴族” なんですか?」
「裕福な貴族は己の知恵があり、我々の力を必要としませーん。
 貧乏貴族は能無しなので、財産を切り売りしたくなければ
 家名に頼っての婚姻で、婚家にタカるしかないのでーす。
 我々は彼らを経済援助し、彼らは我々の血筋に名誉をくれる、
 GIVE and TAKE でーす。
 しかもこういう結婚では、大抵お金がある方が主導権を握れるので
 我々にとっては、理想的な結婚相手なのでーす。」
 
 
あまりのカルチャーショックに呆然とするグリスをよそに、主が言った。
「あなたの場合、それプラス “ブサイクな娘” というのも
 条件に入れといた方が良いですよー、リオンー。」
 
「何故でーすか?」
「美人の結婚相手だと、“トロフィー・ワイフ” みたいで下品でしょうー?
 “見た目にとらわれず中身で女性を選ぶ誠実な男性”
 を演出した方が、得ですよー。」
 
リオンがポンッと手を打ち鳴らした。
「なるほど!!! さすが主でーすね。
 その案、もらいま-す。」
「お役に立てて、なによりー。」
 
 
汚すぎるふたりのやり取りに、グリスは虚しい気持ちになった。
「グリス、現実を直視しないと、幸せになれませんよー。」
 
主の心を見透かすような言葉に、ギクリとしつつも
慌てて否定をする。
「い、いえ、ぼくは別に・・・。」
 
「誰でも自分の価値に迷う時期を送って生きてきているんですよー。
 あなたは解説されるだけ、まだ幸運ですよー。
 年寄りの言う事は聞くもんですー。」
 
 
「主様は年寄りなんかじゃありません!」
そういうところにだけは引っ掛かって、反射的に怒るグリスに
日頃からウンザリしていた主が反撃をした。
「私が年寄りになったら、価値がなくなるとでもー?」
 
「い、いえ、決してそういう意味では・・・。」
「年寄りと言って否定されるのは、年寄りしかいないんですよー。
 若い子が年寄りとか言っても、一笑にふされるだけですからねー。
 もちっと配慮して反応しなさいねー!」
 
「はい・・・、すみませんでした・・・。」
謝って落ち込むグリスに、リオンが優しく肩を叩いた。
「ははっ、主に敵う者などいませーんよ。
 主は怒った事すら、すぐ忘れまーすから大丈夫でーす。」
 
リオンの言葉にムッとして、振り向いて睨む主。
その瞬間TVからバシュッと音がして、自キャラが倒れたのに気付く。
 
「ひいいいいいいいいっ、セーブしてなかったのにーーーーーっっっ!!!」
 
 
「良かったでーすね、これで主の怒りがゲームに行きまーすよ。」
リオンがグリスにヒソッと耳打ちした。
 
しばらく畳の上に倒れていた主だったが
ムックリ起き上がると、リオンに攻略本を投げつけた。
「おめえのせいだよーーーーーーっ!」
 
「ええっ、私でーすかーーーっ!」
リオンは慌てて立ち上がり、上着とバッグと靴を素早くかき集め
叫びながら、裸足で部屋を飛び出て行った。
「では、そういう事で、またーーーっっっ。」
 
 
ドアに向かってフーフー言ってる主の後ろで、グリスは妙な感心をした。
 
に・・・逃げ慣れている・・・
 
 
 続く 
 
 
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Comments

“かげふみ 29” への2件のフィードバック

  1. ゆかりのアバター
    ゆかり

    こんにちは。
    すがすがしいほどの腹黒コンビ、ここまでストレートだと逆に読んでいてスッキリします。大好きです、このノリ。
    純粋なグリス君は、そのうち心労でハゲでも出来そうですね。周りの人が濃すぎる分、腹黒濃縮エキスが出来ていそうな感じです。でもこういう理想と現実のギャップは遅かれ早かれ若者は一度は通る道だと思いますが、彼の場合どう対応していくのか気になります。苦労しそうですよねー。

    そういえばリオンさんは議員になるんですよね。この独特のあやしい話し方は選挙用には使えないでしょうから、普通に話すことも出来そうなのに、敢えてこの話し方・・。
    リオンさんが出てくるのが楽しみでたまりません。
    いろんな意味で。

    前にも書きましたが、やはり私は館シリーズが特に好きですね。独特な人間模様に惹き付けられます。
    これからも楽しみにしています。

  2. あしゅのアバター
    あしゅ

    ゆかりちゃん、ありがとうーーー!
    そう言ってくれると、ホッとするよー。

    この “かげふみ” は
    恋愛話のつもりで書き始めたら
    どんどんヘンな方向に話がいって
    どうしようか、と困ってるとこなんだよ。

    恋愛を目指すと、いつもこれだから
    いい加減、諦めれば良いのにのお・・・。

    館とこの話は、かなり雰囲気が違う事になりそうなんで
    とにかく先に謝っておく。

    ほんとすみませんほんとすみません

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