かげふみ 34

“といった感じで、最近は主様と談笑できる機会が出来て
 とても楽しい日々が続いています。“
 
携帯のメールを送信するグリス。
相手はアスターである。
ふたりの交流は、グリスが館に戻ってからも
ひんぱんなメールのやり取りで続いていた。
 
 
そんなある日、アスターからのメールにグリスは悩んだ。
 
“2~3日、休暇が取れるので、久しぶりに会いたいな。
 そっちに遊びに行っても良いかい?”
 
 
グリスが館に戻る時に、アスターは駅まで見送りに来てくれた。
「アスター、本当にありがとう。
 きみと出会えた事が、ぼくの学生生活で一番の思い出だよ。」
 
微笑みながらも、寂しそうに眉を下げるグリスに
アスターが少し怒った口調になる。
「思い出にしないでくれよ、グリス。
 ぼくはこれからもずっときみと付き合いたいんだよ。」
 
その言葉に、グリスはうつむいた。
「・・・ぼくは多分、もう一生クリスタル州から出られない。
 それでも友達でいてくれる?」
 
アスターはグリスを抱きしめた。
「もちろんだよ。
 きみが来られないなら、ぼくが会いに行くよ。」
 
心地良い風が吹き抜けるホームの人の群れの中
ふたりは名残惜しそうに見つめ合った。
 
 
アスターに会いたいけど、ここに呼んでも良いものだろうか?
グリスは、それは出来ない気がした。
ここは秘密の館なのだ。
 
グリスは、主の寝室をノックした。
はい、と我が部屋のように返事をしたのはリオンである。
 
「お車があるから、いらっしゃっていると思って・・・。」
さっき主は総務部の方に走っていくのを見かけた。
部屋にはリオンしかいないのはわかっていた。
 
リオンはコントローラーの一時停止ボタンを押した。
「どうしたんでーす?」
「はい、ご相談がありまして、実は・・・。」
 
 
グリスから詳しく話を聞いたリオンは考え込んだ。
「うーん、ここに招くのは無理でーすねえ。」
「やっぱりそうですよね・・・。」
 
「ところで、そのアスターって子はどんな子なんでーす?」
「あ、写メがあります。」
 
グリスの携帯のアスターの画像を見たリオンの目が、怪しく光った。
「グリスくん、ここじゃなくて私の別荘に招きましょーう。
 主ときみと私とで、休暇を過ごすんでーす。」
 
「え、そんなご迷惑は・・・。」
「“親子” じゃないでーすかあ、水臭い。」
 
 
リオンとグリスは、養子縁組を終えていた。
よろしくお願いします、と返事をしたグリスを
リオンは大喜びでハグし、急いで手続きをしたのだった。
 
その喜ぶ様子は、たとえリオンの世界征服計画の一環に利用されてても
それでも良い、とグリスも素直に思えるほどだった。
 
主への説得は任せろ、とリオンはグリスに言い
早速、執務室へと出て行った。
 
 
主が執務室に戻ると、リオンがソファーに座っていた。
「おやー、どうしたんですー? こっちに来るなんて珍しいー。
 また中ボスにてこずってるんですかー?
 あなた、回復のタイミングが遅いんですよー。
 先手先手で中回復をしておかないとー。」
 
「いやいや、今日は良い話を持ってきたんで-す。」
その言葉を聞いて、主はそっぽを向いた。
「あなたとジジイの “良い話” ほど
 怪しいもんもないですからねー。」
 
「いやあー、さすが歴代一と名高い主!
 その疑り深さじゃなきゃ、ここを仕切れませーんもんねえ。」
馴れ馴れしく、主に擦り寄るリオン。
 
「でも今日のは本当に “良い話” なんでーすよー。
 “我々” にとってはねー。」
 
主がいぶかしげな顔で振り向き
リオンが悪代官のように、ヒッヒッヒと笑った。
「グリスくんがですね・・・」
 
 
「ふーん、ふたりで行けば良いじゃないですかー?
 私、行く気、サラサラないですよー。」
主の答は、予想通り素っ気ないものだった。
 
「そう言うと思ってまーした。
 ところがで-す!
 この話には思いがけない裏設定があるんでーす。
 聞けば絶対に行く気になりまーすよ。」
 
リオンの自信たっぷりの誘い受けに、主は少し興味をそそられた。
「・・・本題、早く言ってくんないですかー?」
 
リオンがもったいぶりながら口を開く。
「実はでーすねえ・・・」
 
 
 続く 
 
 
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Comments

“かげふみ 34” への4件のフィードバック

  1. unaのアバター
    una

    あしゅちゃんすんげえどS!
    続き読みたくて読みたくて悶死しそう!!

  2. あしゅのアバター
    あしゅ

    ・・・いや、大した話にならないんだ・・・。

    ごめん、ほんっとごめん!!!

  3. ふぢこのアバター
    ふぢこ

    はじめまして
    数日前このブログに出会って小説一気読みして追いつきました
    かなりツボってます
    こんなに楽しく小説読んだの久しぶりでした(笑)
    ありがとうです。

  4. あしゅのアバター
    あしゅ

    ふぢこちゃん、ようこそーーー!

    えっ、面白い?

    ああああああああああありがとうーーーーー
    嬉しいーーーーーーっっっ!

    えええええ・・・?
    私の小説、面白いのかあ・・・

    うっそーん、だったらやっぱり文豪自称で良いよね?

    (天狗になっている模様を生中継)

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