かげふみ 36

リオンの別荘に、アスターがやってきた。
一応それなりのきちんとした格好をして出迎えた大人3人。
 
アスターは丁寧に招待のお礼をしたが
主を見て、違和感を感じていた。
 
目の前に立っている主という女性は
いかにも東洋人という外見で、ボケッとしている。
グリスの話や、電話から漏れ聴こえた怒声と
どうしてもイメージが合わないのである。
“この” グリスが心酔するほどの魅力も見当たらない。
 
 
「夕食は7時の予定なので、それまでは自由にしていてくださーいねえ。」
リオンが言うと、グリスがアスターの腕を引っ張った。
「裏手に、すごくキレイな湖があるんだよ。
 散歩でもしよう。」
 
仲良く立ち去るふたりを見送ったあと
大人たちは相変わらずの茶飲みを始めた。
 
 
「ね? 爽やかなボーイズラヴでしょーう?」
「てか、アスターって白人じゃんー。」
「それが何か?」
「白人が黒人に本気で恋するなんて、あるかなあー?」
 
「おーう、それは充分にアリでーすよ。
 高い教育を受けた白人は、“差別をしない平等観” というのも
 教養のひとつとして誇るんでーす。
 実際に深層心理がどうだったとしても。」
「ああ、なるほどー。」
 
ふたりのやり取りに、ジジイは付いていけない。
「何の事じゃ? その話題は。」
 
 
「まあ、今はそういう垣根もなくなってきたようでーすよお。」
「とは言っても、まだまだ一部でしょうー?」
 
それを無視して、話を続けるふたりに、ジジイが怒り出した。
「だから何の話をしとるかと訊いとるんじゃ!」
 
「黒人と白人の友情についてでーす。」
リオンがものすごい大まかな説明をした。
が、ジジイは納得したようで、話に加わってきた。
 
「グリスは、ありゃあ黒人の血は薄いじゃろう?」
「ええ、アングロ系は絶対に入ってまーすねえ。」
「肌は黒いが、あの髪質と顔立ちは独特じゃもんな。」
 
 
“人種” について、リオンとジジイが語り合う横で
主が呆れたように聞いている。
「しっかし、あんたら外人って、ほんっとそういう
 人種の細かいとこにこだわりますよねー。」
 
「・・・外人はあんたの方なんじゃがな・・・。」
「単一民族の島国の人にはわかりませーんでしょーうねえ。」
「・・・現実は単一でもねえんだがなー。
 日本にも差別はあるけど、欧米に比べたら軽いもんですよー。
 あんたら、ほんっと差別が根底にありますよねー。」
 
主の非難を、リオンが軽くかわす。
「陸続きの国々では、“民族” というものを重視しないと
 己のアイデンティティを保てないんでーすよ。」
「まあ、どうしても世界視点で言うと、 “国家” が個人の居場所で
 それを保ちたいなら、区別差別もしょうがないわな。」
 
主は気のない返事をした。
「ふーん。」
 
 
「にしても、アスターくんが良い家庭の育ちで良かったでーすねえ。」
「そうじゃな。 さすがグリスが親友に選ぶだけある。」
ふたりの会話に、主が疑問をはさむ。
「アスターの身元を調べたんですかー?」
 
リオンが当たり前でしょう、と言う顔をした。
「“生まれ” は調べましたけど、“育ち” は見てわかるでしょーう。」
「へえー・・・?」
 
よくわかってない主に、ジジイが補足する。
「我々の国じゃな、人種や階級によって住み分けが明確なんじゃよ。
 この現代においても、両者が交わる事は滅多にないんじゃ。」
 
「そう。 だからアスターくんの前では
 我々はそれ相応の振る舞いをしなければなりませーん。」
「主、あんたの言動が一番心配じゃ。
 グリスに恥をかかせんよう、きちんとせえよ!」
 
 
うへえ、やっぱり来なきゃ良かった・・・
主はウンザリした。
 
3日も猫をかぶる事など出来るのか? 主よ。
 
 
 続く 
 
 
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