かげふみ 37

ジジイの眼光にさらされていたせいか
主は、物静かな女性として、何とかその夜の食事はやり過ごせた。
 
アスターの興味は、主にいっていたが
ジジイとリオンが何かと話しかけ、主が喋らなくて済むよう苦心した。
 
 
手練れの大人ふたりのお陰で、弾む会話ではあったが
アスターはグリスの仕草が気になった。
 
グリスは老人や義理親に話しかけられた時以外は
ずっと主という女性の方を見ているのだ。
主は涼しい顔で、黙々と飯を食っている。
グリスの方をまったく見ない。
 
無視をしている様子もないし
これだけ凝視されているのに、それを気に留めないなんて
並の神経では出来る事じゃないと思うんだけど・・・
アスターには、ふたりの関係、特に主の気持ちが想像も出来なかった。
 
 
「主様はいつもああいう感じなのかい?」
食事が終わり、ふたりになった時に率直に訊いてみた。
 
アスターの問いかけの意味が、グリスにはわからなかった。
「ああいう感じって?」
そう問い返されると、逆に困る。
「ええと・・・、無口な方に思えたから。」
 
「うん、仕事以外ではあまりお喋りな方じゃないなあ。
 無表情なのは、仕事中もだけど。」
「へえ・・・。」
 
 
アスターが真に訊きたかったのは
主はグリスをぞんざいに扱ってるんじゃないか、という事なのだが
それを言うと、きっとグリスは傷付く。
 
多分、主様は不器用なお方なのだろう
東洋の女性というのは、つつましやかだという話だし
現にグリスのために、仕事を休んでここに来てくれている。
 
ぼくに立ち入れるような事じゃないんだけど
明日は主様に話しかけてみよう。
アスターは “主様の感想” を、先送りにした。
 
 
翌日、リオンが窓の外を見て言った。
「主、ボーイズラヴたちが泳いでいますよ!」
 
主はソファーにでんぐり返ってDSをしている。
「男の裸なんぞ、興味はないですねー。」
 
そこへジジイが入ってきて、いきなり文句を言い始めた。
「あんた、夕べの態度は何じゃ?」
主が え? 何? と、キョロキョロする。
 
「あんたじゃよ、あんた!
 アスターに話かけんとグリスに目もくれんと、モソモソ飯を食うばかりで
 さっきの朝食にも出てこんかったじゃないか!
 グリスが心配しとったぞ。」
 
「ええーっ、ボロを出さんように黙っていたのにー。
 それに夜更かし寝坊は休日の仕様じゃないですかー。」
心外だと言わんばかりに、主が口答えをする。
 
「“招待” は、休日ではないんでーす。
 公務と思って、気を抜かないでくださーい。
 それにお客をもてなすのは、紳士淑女の義務でーす。
 今日はきちんと “社交” をしてくださーい。」
 
リオンの言葉に、ジジイもうなずきながら言う。
「あんな態度じゃ、グリスを無視していると思われるぞ。」
アスターと同じ感想を、大人ふたりも感じていたようだ。
 
主は素直に詫びた。
「育ちの悪い事をして、ほんとすみませんでしたー。
 今日は頑張りますー。
 やる時ゃやりますよ、私はー。」
 
 
その言葉に、ジジイは逆に不安になった。
こやつがこういう時は、ロクでもない事をしでかすもんじゃ。
大丈夫かのお・・・。
 
リオンは窓に張り付いて、眼下で展開される
花びらと点描の世界を堪能していた。
大事なのは想像力なのだ。
 
 
 続く 
 
 
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