かげふみ 40

結局、主が寝込んだのは1日だけだった。
翌日からは普通に出てきて、普通に仕事をした。
 
だけど、その合間合間にボンヤリと窓の外を見つめる。
グリスには、それは良い兆候には思えなかった。
 
いつもなら息抜きには、ゲームサイトかオカルトサイトを
コソコソ隠れ見ていらっしゃった。
なのに今は、窓の外を眺めていらっしゃるだけだ。
バラの季節ではないのに・・・。
 
 
グリスはその不安をジジイに電話で訴えた。
「主様が遠くに感じるんです。
 すぐそこに座っていらっしゃるのに。」
 
グリスの泣きベソ風味の言葉を、ジジイはなだめた。
「歳を取ると、そういうものなんじゃよ。
 別に具合が悪いとか、そんなんじゃあないんじゃ。
 ただ、ちょっとだけペースが落ちるんじゃ。」
 
そうは言ったものの、ジジイも気になり様子を見にきた。
グリスの主様心配はいつもの事なんじゃがな・・・。
 
 
「・・・ああ・・・、また幻覚が見えるー・・・。
 草葉の陰にいるジジイの姿が見えるー。」
ジジイの姿を見た主が、目頭を押さえながら頭を振る。
 
「わしゃまだ死んどらんわ!」
怒鳴りはしたものの、安心もした。
何じゃ、いつもと変わらんじゃないか。
グリスの取り越し苦労も困ったもんじゃな。
 
 
しかし、ソファーで茶を飲みながら観察していると
確かに多少は疲れやすくはなっているようだ。
パソコンを見ながら、目をシパシパさせ
首を傾けながら肩を押さえる仕草をひんぱんにする。
 
「あんた、体調はどうかね?」
ジジイの質問に、主が正直に答える。
「んー、老眼にはパソコンはきついですねー。
 TVとかも何か画面から光線、出てますよねー?」
 
「ああー、それわかるぞ。
 携帯なんかも辛くないか?」
「文字、見えませんよねー。」
 
 
この後は、年寄り恒例の不調自慢大会になった。
それを横のデスクで聞いていたグリスは、納得できなかった。
 
主様の変化はそういうものじゃない。
何というか・・・、最近随分穏やかになられた。
 
ぼくの気持ちにも、以前はロコツにイヤな顔をなさっていたのに
今は無表情で無視なさっている。
それも以前の爬虫類のような冷徹な目ではなく
まるで違う次元のものを見ていらっしゃるような・・・。
 
 
おいおい、グリス、嫌がってるとわかっててやってたんか?
と言うか、その態度は、穏やかうんぬんとかじゃなく
より一層眼中になし、になってるんじゃないのか?
 
 
 続く 
 
 
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