「白雪姫の童話はご存知ですねー。
鏡が世界一の美女は娘だと空気の読めない発言をして
母親が怒り狂って、実の娘を毒殺する話ですー。」
主が演説で、またロクでもない事を言い始めた。
「白雪姫は、リンゴに仕込まれた毒で仮死状態になったのですが
そんなこたあ、ありえないー。
リンゴはキリスト教で言うところの “知恵の実” ですー。
白雪姫は、リンゴを食って知恵が付いたのですー。」
宗教を信じていないくせに、何を言いだすんやら。
「つまり、白雪姫は知恵が付いて
人間、顔だけじゃやっとられん
現に母親は美に執着しすぎて、ドグラになっとる
そう気付いて、ひきこもりになったのですー。
つまり、“社会的な死” なのですー。」
まったくムチャクチャ言うものである。
「人間、顔のつくりではありませんー。
でも人間、外見なんですー。
人は見た目で判断されますー。
それは当然の事なんですー。
何故なら、その服を髪型を選んでいるのは
他ならぬ自分の判断なのだから、外見に性格が表れるのは当然で
人はそれを見抜くのですー。」
今日の話は、きちんとした格好をしましょう、という事らしい。
主は話の最後にこう締めた。
「まあ、老いていくのはしょうがないですけどねー。
せめて美しく老いていきましょうー。」
聴きに来ている住人から声が飛んできた。
「主様はいつまでもお若いですよーーー。」
その言葉に、主は高笑いをした。
「当然ですわー。
わたくしは苦労を顔に出すような生き方はしていませんことよー。
ほーほほほほほほほほほーーー」
講堂が笑いに包まれたが、主にとってはギャグではなかった。
こんだけ金と手間をつぎ込んで、普通に老いとったらやっとられんわ!
主はフンフンと鼻息を荒くして、執務室に戻ってきた。
デスクに座るなり、顔にシートマスクを乗せ
スプレー化粧水を吹きかける。
「パソコンの前で霧吹きをすると、また壊して電気部に怒られますよ。」
リリーがシュッシュの音を聞いて、注意すると
主がリリーのデスクにきて、20cmの距離から顔を注視する。
「やめてください。」
嫌がるリリーの頬を、主が指で突付く。
「ほら、アップで見られると気になるでしょうー?
あなた最近、こことここにシワが増えましたよー。
あと、ここ、ソバカスが繋がりかけてるー。
これ、大ジミになりますよー。
ケアしないと、老け込みますよー。」
「余計なお世話です。」
「キレイなままのリリーさんでいてほしいから、ほらこれー。」
主が美白用シートマスクをリリーに渡した。
「20分だけで済むから、それ貼ってくださいー。」
渋い顔をするリリーに、主が言い放った。
「事務部にも若者が増えてるし
バカガキって、自分が悪いくせに怒られたら
『あのクソババア、更年期でイライラしてんじゃねーの?』
とか言いたれやがるんですよー?
そんな隙を与えないようにしてくださいねー。」
グリスが執務室に入ると、女性ふたりがスケキヨになっていて
思わず、うわっと声が出た。
「な、何をなさっていらっしゃるんですか?」
「美容ー。」
あ、ああ、そうですか・・・ しか、グリスには答えられなかった。
マスクの下のリリーの目は、明らかに怒りに燃えており
それ以上に主の目は鬼気迫っていたからである。
続く
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