葬儀の後、ジジイは主の事務室に座っていた。
主がいなくなった暗い部屋の中に、ただジッと。
何をする気にもなれない。
主の死を知った瞬間から、ロクに飲食もしていなかった。
わしより先に逝くなど、思ってもみない事じゃったわい。
あやつには最後まで驚かされる。
じゃが・・・、さすがのわしも参った・・・。
泉の水が枯れたような気分じゃ・・・。
あの時の主も、こういう気持ちじゃったんじゃろうか。
わしは主の気持ちもわからず、励ますばかりで・・・。
ジジイが後悔と懺悔を繰り返していると、ノックの音がした。
「すみません、元様、緊急事態ですので・・・。」
ジジイがツカツカと廊下をやってきた。
ドアの前に立っていたタリスは、その形相に無言で横に退いた。
ドアを開けると、グリスはベッドに突っ伏して泣いていた。
ジジイは、グリスの襟を掴んで引き上げた。
老人とは思えない、ものすごい力である。
拳でグリスの頬を思いっきり殴った。
その強さは、グリスが床に叩きつけられるほどだった。
「ローズを失った主は、2ヶ月で立ち直った。
グリス、おまえは男じゃから1ヶ月でどうにかせえ。
よいか、グリス、必ず立ち直れ!
主の拓いた道を閉ざすでない!!!」
そう怒鳴ると、厳しい顔で部屋を出て行った。
グリスが殴られた頬を押さえて、混乱していると
館内放送が鳴った。
ジジイの怒りに満ちた声が響き渡る。
「主代行じゃ。
主の世話係のデイジーが自殺した。
遺書で主の死を嘆いておった。
主があれだけ言っていた事を忘れたか!
よいか、皆、殉死など許さん!
主の教えを守りぬけ!」
少し間を空け、放送が続く。
「これより30日間、この館は喪に服する。
その間、派手な事は慎んで、主の死を思う存分に悲しもう。
しかしそれが過ぎたら、また動き始めよう。
この館を停止させてはならん。
主の死を悲しいと思う者なら、主の残したものを大切にしようぞ。」
デイジーさんが死んだ・・・。
グリスはショックを受けたが、その気持ちも痛いほどに理解できた。
わかってる。 自分のすべき事はわかってるんだ。
でもあのお方を失って、どうして自分が生きていられる?
グリスは再び、号泣し始めた。
その声は、ドアの外のタリスにも聴こえたが
どうする事も出来ず、タリスも溢れてくる涙を拭うしか出来なかった。
続く
関連記事 : かげふみ 44 12.4.3
かげふみ 46 12.4.9
かげふみ 1 11.10.27
カテゴリー ジャンル・やかた
小説・目次
コメントを残す