30日間の喪が明けて、館の運営は再開された。
主の寝室、書斎、そして執務室のデスクは永久保存となった。
長老会で満場一致で決まった事だった。
結局リオンが代金を払った、主の寝室の品々も
そこにそのまま残す事になった。
「こんなマニアックなものを、妻のいる家には持ち込めませーん。
それに、ここに来てするからこそ楽しいんでーすから。」
リオンは、変わらずゲームをしに館に通い続けた。
グリスは館の講堂で、主就任の儀を受けた。
「“主” の名は、先代で最後とします。
私以降は、“管理者” を名乗ります。
主様の偉大な功績に敬意を表して
主様は先代主様のみ、といたします。」
1ヶ月前に泣き喚いていた人物とは思えないほど
落ち着いて穏やかで静かな、しかし信念のこもった声だった。
「日課の演説は、これからも続けます。
しかしそれはぼくではなく、今まで通り主様です。
主様の演説の映像を流します。
ぼくたちは、ずっと主様に導かれるのです。
ぼくは、単に管理の跡継ぎでしかありません。
皆さん、この館を、主様の教えを
どうか一緒に守っていってください。
お願いいたします。」
主の最初の就任演説の時とは違って
今回は大きな拍手で、住人たちに迎えられた。
よくここまで立ち直ってくれたわい
さすが、主が鍛え上げた跡継ぎじゃな。
横で聞いていたジジイは、涙が出そうに嬉しかった。
講堂の一番前を陣取る長老会メンバーたちも、盛大に拍手をした。
リオンもその中にいて、ひときわ大きく手を打ち鳴らした。
相変わらず冷静な表情のリリーも、こころなしか微笑んでいるし
護衛に立っているタリスや、講堂に座っているラムズも誇らしげである。
デイジーに代わり、お世話係の筆頭になったレニアは
マリーと一緒に、はばからず泣いていた。
あの汚かった子供が、ここまで立派になって・・・。
グリスの就任初の仕事である式は、大成功の内に幕を閉じた。
春本番になろうかという、温かい日差しの午後だった。
式典を終えたグリスは、長老会メンバーたちと一緒に
主の墓所に報告に訪れた。
墓地自体は館からは見えないが、その丘の一番上にある主の墓は
ピンクや赤に彩られているので、遠くからでもわかる。
主の墓所は、バラの花が耐えた事がなかった。
リオンが命じたのである。
「クリスタル州、いや国中、世界中を探してでも
主の墓にはバラを供え続けてくださーい。」
その費用は、リオンの私財で賄われた。
「お金の心配はいりませーんよ。
だって私は大金持ちでーすからね。」
リオンは主の墓に向かって、ふふっと笑った。
続く
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