かげふみ 51

マデレンが長老会議に出席した。
「ようやく完成しました。
 主様のプロモは、3種類あります。」
 
「何故3種類だね?」
「はい、それは職員の転勤等で
 主様を直接知らない人も編集に参加したので
 彼らの意見と私の意見が、まったく食い違ったのです。」
 
マデレンは3枚のディスクを見せた。
「これは主様を知らない人が選んだ、善・主様の映像集。
 数少ない笑顔がメインです。
 こっちは、主様のインタビューシーン。
 仕事中の風景や演説のシーン。
 そしてこっちは、私が選んだ悪・主様集です。
 平然と鬼のような事を言ってのける、あのいつもの主様です。
 私の思う主様の魅力は、この悪・主様に表われていると思うのです。」
 
 
「なるほど、本人を充分に理解していないと
 彼女の大部分は、“悪” だと判断されますね。」
「ふむ、3種類に分けたのは良い判断だな。」
メンバーたちはうなずいた。
 
「この3種類以外にも、館の日常や村の風景
 住人たちや村人のインタビューなどの編集も進んでいます。」
 
「ほお、思ったより綿密に分類しているんだな。」
「じゃあ、早速これらを観てみようじゃないか。」
メンバーたちは、大画面モニターの前でワクワクした。
 
 
善・主様。
「ああっ、相変わらず、張り付いたような笑顔だ。」
「目が笑ってないんですよ、この人は。」
「うわ、これじゃバカ笑いですよ。」
「“微笑む” ってのが出来ない人でしたよねえ・・・。」
 
不評である。
「口直しに悪シリーズを観ましょうよ。」
「うむうむ、“あの” 主が観たい。」
 
 
『はあー? 昨日言ったじゃないですかー。
 丸一日も猶予を与えたのに、何で出来てないんですー?
 ここがどこの国であろうと、この館では
 私時間で動いてくれないと、はちくり回しますよー?』
 
『でー? 言い分は何ですかー?
 ほー、へー、ふーん、はい、却下ー。
 理由? いくらでもいかようにも言えますよー?
 だけど言いくるめられる時間がもったいないと思いませんかー?
 結局はあなたは私の意見に納得する、と納得してくださいー。
 てか、いい加減、この流れを学習してくださいねー。』
 
 
「うーむ、鬼だなあ・・・。」
「主の罵倒の右に出る者はいませんよね。」
「聞いていると、納得してしまいますもんね。」
「亜流を主流にするパワーが凄いですよねえ。」
 
批判しながらも、嬉しそうに見入るメンバーたち。
「これらを見ると、会議ではまだ抑えてたんですね。」
「それなりに気を遣ってもらってたんだなあ。」
「あれでも、だがな・・・。」
 
 
最後に主のインタビューを見る。
好きな食べ物は? などのたわいない質問から入り
主らしい、と会議室は笑いに包まれていたが
館についての答に、誰もが口を閉ざした。
 
『この館は、身寄りのない元犯罪者たちの施設ですー。
 彼らは法的には、罪を償い終わっていますー。
 だけど罪は、一生自分の中で生き続けるのですー。
 そんな彼らには行く場所がないー。
 この館で生きていくしかないのですー。
 ここは、そういう意識でいる限り
 人生の牢獄と言える場所なんですー。』
 
『だから私は、彼らにこの館を維持する喜びを与えたかったんですー。
 彼らの人生に欠けているもの、それは希望ですー。
 この館で、それを感じてもらいたいんですー。
 罪を抱えながらも、喜びも同時に持っていられるー
 ここをそういう場所にしたい、それが私の目標ですー。』
 
 
「『館の事しか頭になかった』 と、おっしゃってらしたけど
 ちゃんと住人の事を考えていらっしゃるじゃないですか・・・。」
グリスが涙声でつぶやいた。
 
「単純に言うと、館 = 住人 なんですよね。」
「完璧主義者だったから、満足がいかなかったんだろうな・・・。」
「充分でしたのにね・・・。」
 
会議室は、涙に包まれた。
 
 
 続く 
 
 
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