「マデレンさん、ご苦労様でした。
引き続きよろしくお願いいたします。」
会議が終わろうとした時、マデレンが言い出した。
「あの、ちょっと噂を聞いたのですが・・・。」
「どんな噂かね?」
「館の噂です。
それも、首都の新聞社の人らしいんです。
州内じゃなく首都で館の噂など、起こる事自体まずいですよね?」
「何っ? 詳しく教えてくれたまえ。」
青ざめる長老会のメンバーたち。
「はい、この前クリスタルシティでばったり元同僚と会ったんです。
クリスタル新聞の社会面担当記者です。
その人の、首都の新聞社に勤める友人からのメールで
館に関する質問があったそうなんです。
元同僚は、館については知っていましたので
単なる元犯罪者の更生施設だけど、とだけ答えたそうです。」
会議室は一気にザワついた。
「どうも、首都のタブロイド誌が館の事を嗅ぎつけたようなんです。
州内では、村の直売所が人気ですよね。
毎日あちこちからお客が来ています。
その話は、首都まで届いていたそうなんです。」
村の商品の人気は、徐々に州外にも広がっていて
それは予定外ではなかった。
「ところが主様の葬儀の時に、その村が一斉に休んだでしょう。
それだけではなく、盛大な葬儀が行われ
州の政財界関係者が大勢参加した、たかが一施設の管理者に何故?
という事らしいです。」
確かに、その疑惑を持たれる可能性に気付くべきであった。
しかし気付いたとて、あの主をひっそり葬るなど
館の関係者には誰も出来るわけがない。
従って、これは避けられないトラブルである。
「それで、そのタブロイド誌はどこまで知っておるのかね?」
マデレンは、すまなそうに首を振った。
「それはわかりませんでした。
タブロイド誌の場合は、何もつかめないと思うんです。
だけど情報網が厚い首都新聞が、この事に興味を持つと・・・。」
「・・・ううむ、館が公になるのはまだ早い・・・。」
皆が腕組みをして、眉間にシワを寄せた。
「いえ、これはチャンスだと思いまーす。」
声を上げたのはリオンだった。
「今の州知事は関わりを避けていまーすが、反・館思想でーす。
館の事が表沙汰になったら、潰しにかかってきまーす。
そうなる前に早めに準備をして、こちらからアピールを開始するんでーす。」
「攻撃が一番の防御か。」
将軍が言った。
「館内は、もう整備されていまーす。
主の死後間もない今、住人たちの心は主の事で占められていまーす。
今なら団結力がありまーす。
逆に有利な条件が整っているのでーす。」
「しかし、ひとつ問題がある。」
白髪紳士が口を挟んだ。
「館がまだ荒れていた頃、私は既に長老会メンバーだった。
・・・共犯じゃよ・・・。
代替わりした者も何人かいるが
この中には、まだ当時のメンバーが多くいる。」
「法的には時効でしょう?」
新メンバーの言葉に、古いメンバーが冷静に答える。
「だが、倫理に時効はない。
そこを突かれると、不利だ。」
ジジイが立ち上がった。
「館の改革は主の死をもって遂げる、そういう予定じゃった。
それは普通に考えて、主がわしらより長生きするはずじゃったからじゃ。
じゃが、順番が狂ってしもうた。
わしらが浄化を阻止しておるんじゃ。」
「じゃあ、私らに死ねとおっしゃるのか?」
感情的になる老メンバーを、ジジイが抑える。
「いや、そういう事は必要ない。
むしろそれをしたら、改革の理念に反する。
ただ、わしらも皆、館に対して責任を取るべきなんじゃ。」
会議室は静まり返った。
確かにそれが筋ではある。
しかし地位を失う事になるかも知れない。
大きすぎる代償である。
続く
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