かげふみ 56

ジジイはいまや、マスコミに引っ張りだこであった。
その毒舌と潔さ、そしてどことなく漂う哀愁。
 
「すべての罪は、わしにある。」
そう告白して、当時の館の状況を語るジジイに、人々は誠実さを感じた。
 
 
ジジイが注目を集めている間に
長老会の調査は、いとも簡単に終わった。
 
「結局、館の存在を公にして、クリスタル州を糾弾し
 鉱山の利権を、州から国に移そうという企みでした。
 現・州知事が、国会進出の手土産にしようと目論んだようですね。」
 
「ふうむ、クリスタル選出の現・国会議員は鉄板の票田を誇るから
 引きずり降ろすには、相当のネタがないと無理だからなあ。」
 
「そうとわかったら、作戦はおのずと決まりますよね。」
「ええ。 売国奴ならぬ売州奴だと突き上げれば良いだけですよ。」
「現・国会議員も、協力してくれる事でしょーう。」
 
 
長老会の若いメンバーの話し合いを聞いていた古参メンバーたちは
しみじみとうなずきあった。
「時代は変わったな。」
「彼らは筋肉痛すら起こさずに敵を倒すのだろうな。」
 
そんな沈んだ空気の中、将軍がいさましく言った。
「今は戦争も、ボタンをポチポチで済みますが
 敵の意欲を削ぐのは、やはり兵を行かせるのが一番なのですよ。」
 
「生きた人間が一番衝撃を与えるのか。」
「ええ、我々の生き証人も正に今、人々に衝撃を与えていますしね。」
 
 
実際、思わぬ伏兵の連続に州知事側は焦っていた。
主、ジジイ、グリス、禁断の館の蓋を開けてみたら
魅力あふれる人物が次々に飛び出してきたのである。
 
そして街の名士たちの、次々の鮮やかなる辞任。
私欲に溺れたわけではないのにそこまでせずとも、との声が上がる。
 
とどめが、リオンの “責任” を取っての市議会議員辞職。
一個人という身分になって、州知事を弾劾している。
その煽動をクリスタル州立新聞が引き受け
州知事が国政への足がかりに州を裏切った、と報道し始めた。
 
 
鉱山は今でもクリスタル州の財源なのは、州民も周知している。
そしてクリスタル州民は排他的である。
自分たちの事は自分たちで決める、という意識が強い。
 
そんな州民たちも、よそものとは言え
館のために尽くしてきた者たちには、同情的であった。
世論は、州知事リコールへと動き出した。
 
 
勝敗は、誰の目にも明らかとなった。
野心を暴かれ、州知事は辞任した。
館は温情をもって、国中に徐々に受け入れられ
その関係者は尊厳を失わなかった。
 
面倒ではあったが、終わってみればラクな戦いであった。
まるで浄化の一環として、プログラムされていたように事は進んだ。
 
 
不思議な事に、今まで館の敵は全滅している。
禁忌の場所にはやはり手をつけてはいけない、という事らしい。
 
 
 続く 
 
 
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Comments

“かげふみ 56” への2件のフィードバック

  1. unaのアバター
    una

    ちょっと、つーかちょっとどころではないんですが不幸がありまして、しばらく喪中なので普通の記事にコメントする気力がないんですが、小説は読んでますので引き続き書いててください。
    と、たまに言っとかないと不安になるでしょ?
    黙ってても読んでるんで、そう思っといてください。

  2. あしゅのアバター
    あしゅ

    unaちゃん、何があったか、とても心配だよ。
    忙しいんかな、と思ってたら
    不幸に見舞われてたなんて・・・。

    わかった。
    いつも見てくれている、と思って
    テンションを下げずに、小説を書くよ!

    unaちゃんは、気にせずに
    好きに通りがかってくれ。

    私も辛い時は、無言で映画を観まくったりするんで
    そういう時に読みたくなる話を書きたい、と
    新たな動機が生まれたよ、ありがとう。

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