館は平穏を取り戻すどころか、逆に賑やかになった。
主やジジイやグリスの存在を知った、国中の人々が
村や館に観光に来るようになったからである。
こういう事態も覚悟していたものの
予想以上の盛況に、館に急きょ “観光課” が作られた。
農産物の売れ行きも良くなったので
住人たちが客の案内に割く時間も、限られてしまうのである。
館の産業は、外部からのバイトを雇うまでになった。
グリスは多忙ながらも、事務を懸命にこなした。
外に出ると、議会中継を見てファンになった女性たちが
キャアキャア叫んで追い回すので、執務室にこもるしかないのだ。
活動的なグリスにとって、インドア生活は辛いものだったが
主様もこれに耐えていらした、と自分を律して頑張った。
主は単にアウトドアの方が辛い性格だっただけなのだが。
ジジイは相変わらず街の豪邸に暮らしていたが
一日おきぐらいには館に通ってきた。
講堂で観光客相手に講演をしたり
グリスの話相手になっていたりした。
「理想の隠居ライフじゃな。」
ジジイは、快活に人生を楽しんだ。
長老会の他の辞任組も、講演に引っ張りだこであった。
かえって辞める前よりも忙しくなった者もいた。
彼らも、館には思い入れが強く
たまに館にやってきては、飽きずに主の資料館を見学し
来賓室でくつろいだりしていた。
元長老会メンバーがこのようにひんぱんに館を訪れるなど
過去に例がない事である。
リオンは、主の寝室通いをやめなかった。
時間が空けば、ちょろっと来てちょろっとやって帰って行く。
自宅でやればいいのに、とは誰も思わなかった。
リオンもまた、主の側を離れたくなかったからである。
この館に住む者、来る者は、全員が主を追う者であった。
主がいなくなっても、なお。
館に来る観光客たちは、これらの事を
かつての惨劇の館が現実にあった証しとして
興味深く、そして好意的に見守った。
館のすべてが、生まれ変わった。
浄化がようやく終わった、と誰もが確信した。
そんな平穏な日々が、何故許されないのか・・・。
グリスがリリーに言った。
「ちょっとおじいさまの様子を見てきます。
最近ここにいらっしゃらないし、携帯にもお出にならないので。」
リリーが少し動揺したのを、グリスは気付かなかった。
ジジイの屋敷でジジイを前に、グリスは凍り付いていた。
ジジイの言葉を聞いて。
「あんた、誰かな?」
続く
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Comments
“かげふみ 57” への5件のフィードバック
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ヒイイイイイイッ(T_T)
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体力のあるボケは厳しいぞぉ~w
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けるちゃん、ふぢこちゃん
さあ、ジジイの花道の始まりだ! -
あらー?
どうしてしまったの??ジジイって何歳なんだろう・・・
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まありちゃん、ジジイの年齢は
“ものすごく年寄り” と設定してるよー。
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