グリスは、リリーを心からの笑顔で見送る事が出来た。
リリーは死ぬまで館にいるつもりであったが
アスターの存在を知って、退職しての旅行を計画したのである。
その事が、結果的にアスターの願いを叶える事にもなる。
アスターが、リオンのリアル育成ゲームをクリアせずに
グリスの側へと着任できたのは
リリーのグレーへの想いのお陰である。
リリーは、死ぬ前に一度は見てみたかったグレーの故郷、
日本に長逗留をして、病で人生を終えた。
その亡骸を迎えに行ったのは、下品な資産家のリオンであった。
ついでに京都に不動産を買う事も忘れなかった。
「スイーツとニンテンドーの本場でーすからね、京都はー。」
庭をぼつぼつと歩きながら、グリスが少し振り向くのを見て
後ろにいるタリスが、確認のように静かにうなずく。
それを見て、グリスは微笑む。
グリスは40代も半ばになっていた。
後ろにはタリスがいて、部屋ではアスターが待っていてくれる。
リオンは州知事になり、精力的に活動をしている今でも
館にゲームをしにやってくる。
次期長老会メンバー予定であるリオンの子供たちも、グリスに懐いている。
館の職員も住人も村人も長老会も、皆がグリスを助けてくれる。
幾重にも守られた真ん中に、空洞があるわけがない
のに。
ラムズの墓の前で、しばらく立ち止まった後に
ローズとバイオラの墓の前を、うつむきながら足早に通り過ぎ
グレーとリリーが隣り合って眠る場所で、また立ち止まる。
大きな桜の木を従えたジジイの墓の隣は、自分の還るべき場所。
そして丘の上の主の墓の前に立った。
遠くに見える山には、もう雪が降っているようで
青いはずの山陰が、モヤでかすんでにじんでいる。
「ねえ、知ってましたー?
あなたと私の名前は同じ意味なんですよー。」
主がカーテンのサンプルを見ながら言った。
「まあ、厳密には違うけど、どっちも灰色関係なんですー。」
「あ、それで不思議だったんですけど
主様のお名前は、日本語じゃないですよね?
何故ですか?」
「ああ、それは日本人の名前は発音しにくいんで
英語名を考えてくれ、と言われたからなんですよー。
兄が “グレー” と付けていたんで
じゃ私も灰色関連で良いかな、と簡単に考えただけですー。」
「主様の本当の名前は何とおっしゃるんですか?」
グリスのこの問いに、主は頬杖を付きながら答えた。
「その名前を持つ者は、もう存在しないんですよー。」
何の感情も入ってなかったその言葉が、何故に重たく感じるのか。
そろそろ跡継ぎを探そう。
今度は明るい名前の子供を。
この館にふさわしい、美しい色の名を持つ子を。
グリスは館を見た。
冷たい風が時折吹き抜け、空が薄暗く曇っているにも関わらず
澄んだ空気が建物を取り巻いているかのようである。
何て美しい風景なのだろう
今でもこんなに悲しいけど、何度やり直したとしても
ぼくは、わかっていながら付いて行っただろう。
落ちる陽に真っ直ぐに挑むあの人の、倒れるあの影を抱きしめるために。
終わり
関連記事 : かげふみ 62 12.5.29
かげふみ 1 11.10.27
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かげふみ 63
Comments
“かげふみ 63” への7件のフィードバック
-
はう~
ひとりひとり去ってく感じがせつなすぎます。
たまに、自分の周りもそうやって
サヨナラしていくんだろうなって思うことあります。
一番最初にさりたいんだけど
自分は最後の方までしぶとく生きそうな気がしてならないw執筆おつかれさまでしたw
ありがとうございました! -
ふぢこちゃん、どうもありがとうーーー!
グリスは地味に辛い立場だよね。
館も世代交代をして、穏やかに朽ちていけば
それが幸せなんだろうけど
館は主の影を追う宿命。最後の主がいなくなっても
多分、館に平穏は来ないかもなあ。あ、ここでお願いをひとつ。
ほとんどの記事は、本文に関係のない雑談をして
良いんだけども、お便りと人生相談と
一応、余韻を大事にしたい小説の最終回だけは
内容に沿ったコメントをお願いなー。いや?
信用していないわけじゃないぞ?w -
お疲れさまでした。
大河ドラマかRPG映画が終わった気分。
思わず「やかた」の最初を読み始めてしまい、止まらなくなってます^^; -
長編お疲れさまでした。
いろいろ感想もあるけど、シリーズ通して面白かったとだけ取り急ぎ伝えておきます。
個人的事情でちょっとまだ精神的に立ち直れてないのと、仕事朝帰りだったり昼帰りだったりで本当に時間がなくて全然コメントできなくてすみません。
でも小説はこれから書いてくれる新しいのもずっと読むので、張り切って書いててください。 -
ぽんぽこちゃん、ありがとうーーー!
長い話なのに、読んでくれて本当に嬉しいよー。もっとサイドストーリーを書きたいけど
いい加減にしとかないと
才能の枯渇とか思われかねないので
どんどん新作に挑戦して行こうと思ってるけど
次がまた黒雪姫シリーズで
私のネタ、偏ってる? と暗雲がーーーっ!今後も調子に乗って
文豪改め国宝級ヅラするので
楽しんでくれたら幸いだよー。えらい特殊な楽しませ方だが・・・。
::::::::
unaちゃん、読んでてくれたんだね。
ありがとうーーー。
面白かったんか? 良かったーーー。心配してるけど、黙って待つよ。
私の宿命は、書き続ける事!でもさ、体には気をつけてくれよー。
忙しすぎる人、ほんと見てて心配なんだよー。
過労死、現実にあるんだからね?心の傷には、楽しい話かな? 悲しい話かな?
ごめん、よく考えると、次のは割に重い話だ。
心の洗浄や気分転換にはならないかも。でも、じじじ自信作!だから!!!
(自分追い込み発動)
(と言う事は、既に切羽詰ってる?) -
あしゅちゃん
楽しく読ませていただきましたよーー。
終わりに近づくにつれて、夕暮れ時のような、
さみしーい気分になりましたが・・・わたしは、ジジイのキャラが好きだぁ~
愛すべき人って感じ・・・で・・・これって、恋愛小説???
-
読んでくれて、感想をくれて
どうもありがとうー。う・・・、momoちゃん、痛いところを。
ものすごく卑怯くせえ言い逃れをするなら
“私式” 恋愛小説だな!!!・・・・・・・・・
どうもすいませんどうもすいません今連載してる “継母伝説” は
間違いなく恋愛話だから!多分。 ← ・・・・・
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