継母伝説・二番目の恋 1

王都から西に離れた見晴らしの良い丘に、公爵家の城が建っていた。
宮廷へは馬で通える距離である。
 
東国中に広がる領地は、どこも平和であり
それは公爵が有能だという証しであった。
 
 
その公爵家の一室で、父公爵が言う。
「王と南国の姫との婚姻が決まった。」
 
娘がお辞儀をしながら応える。
「それはお目出度い事ですわね。」
 
 
娘の気のない返事に、父公爵がドン!とテーブルに拳を叩きつける。
「目出度くなぞない!
 本来なら、おまえが揺るぎない王妃の第一候補であったのに
 王は事もあろうに、あの南国人と姻戚関係を持つのだぞ!」
 
南国人は、黒い髪と黒い目に褐色の肌を持つ。
決して未開の地などではないのだけど
この付近の国では、東国が一番大きいので
奢りがない、とは言えないのが現実であった。
 
 
「しかも王から、おまえを王妃の友人に、と言うてきおった。
 この国一番の貴族である、わしの娘に
 田舎娘の相手をせよ、と言うのか!」
 
いきり立つ父親に、娘が微笑んで言う。
「お父さま、あたくしは喜んで参りますわ。
 宮廷にいれば、政情も把握しやすいですし
 他国の王族とも知り合えるでしょう。
 我が公爵家のためになりますわ。」
 
父は娘のその冷静さに、感服せざるを得なかった。
「・・・そなたはわしの誇りじゃ。
 本当にそなたこそ、この国の王妃となるに
 ふさわしい知恵と美貌を持っておるのに
 わしの根回しが足りなかったせいで、すまぬ・・・。」
 
 
「いいえ、お父さま、諦めるのはまだ早いですわ。
 王妃さまが長生きなさるとは限りませんしね。」
 
父は驚いて娘の顔を見た。
そして強く抱きしめた。
「ほんに、そなたが女であるのが口惜しい・・・。」
 
娘は強気な言葉とは裏腹に、瞳を曇らせていたが
その陰りは、父親には気付けなかった。
 
 
東国では過去に女王がいた事により、女性でも爵位を持てる。
貴族たちの爵位の継承は、基本的には嫡男優先であるが
各家ごとに、独自のルールを持つ事が出来た。
 
この相続者選びには、かなりの自由を許されてはいたが
女性が相続者として立つ場合は
嫡子に男児が生まれなかったから、というのが主な理由であり
跡継ぎとしては、依然として男子が望まれているのが現状であった。
 
庶子に跡継ぎの可能性を与えない貴族が多いのは
お家騒動を出来る限り回避したいからである。
 
 
現公爵には正妻との間に、男児が何人もいるので
跡継ぎには困らなかった。
 
しかし東国でも、最も古い歴史を持つ貴族のひとつである公爵家の
先祖代々の財産を維持するだけではなく、より一層、強固にしていき
数家ある公爵家の中でも、常にトップの権力を握っている現公爵に
その気質、思考とも、誰よりも似ているのは、
跡継ぎの可能性がある兄弟たちではなく
 
この公爵家の娘であった。
 
 
 続く 
 
 
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