継母伝説・二番目の恋 10

「よろしいですか?
 王妃として、国の政策にも精通していなければなりません。
 代々の王妃さまは、主に国民の生活の保護活動をなさいました。
 他国からいらした王妃さまには、わかりにくいでしょうから
 この国の大まかな流通事情から説明いたしますわね。」
 
そこから詳しく教えたというのに
王妃は今、自分の隣で口ごもって涙ぐんでいる。
貴族議員たちとの会議の席で。
 
 
この、だんまり王妃の脳天を叩き割りたい衝動に駆られたが
公爵家の娘は、無理に笑顔を作って言った。
 
「王妃さまは、こうおっしゃりたいのですわ。
 今年は綿の出来が良い見通しなので
 他国への流通を抑えて、備蓄しておくべきだと。
 ですわね? 王妃さま?」
 
公爵家の娘が、王妃に同意を促すと
王妃はとまどいながら、うなずいた。
 
 
「しかし、今回は綿の出来は他国も同じく良いようですぞ。」
大臣のひとりが口を挟む。
ほほほ、それを待っていたのよ。
 
「ええ、他国は喜んで豊作の綿を消費するでしょうね。
 そこで来年の春にでも、薄手のコットンドレスを流行らせるのですよ。
 他国は冬物で綿を使い切るでしょうから
 来年の綿の収穫期までのドレス市場は、うちの独壇場になるでしょう。」
 
「どうやって流行らせるのです?」
「それは、王妃さまを筆頭に、我が国の美しい姫君たちが
 お召しになればよろしいのですわ。
 民衆は高貴な方のファッションを真似たがるものです。
 綿の衣服は安価ですから、買いやすいと思いますわ。」
 
 
つい立ち上がって熱弁をふるった直後に、慌てて王妃に訊く。
「と、おっしゃってましたわよね?」
王妃はボーッとしている。
 
あれだけ説明したのに、何時間も本を積み上げた横で懇々と教え聞かせたのに
王妃はひとことも喋ってくれなかった。
それどころか、何ひとつ覚えていないみたいだ。
 
 
この王妃さまは、本当に頭が悪いお方のようね
あたくしはこれから一体、何十時間、何百時間を
ムダに使わなくてはならないのかしら・・・
公爵家の娘は、肩を落としつつも足早に廊下を歩いた。
 
しかし、自分の靴の先から窓の外に目を上げる。
人に教える分、自分の実になるものだし
それがあたくしの役目よね。
 
窓の外の光景は、新緑に包まれていた。
丘の上に建つ広大な城は、見晴らしの良さが絶品だが
時間に追われる公爵家の娘には、風景など目に入らない。
 
 
今日の会議では出しゃばり過ぎたわ。
こんな事で、王妃を差し置いているように見えたら
王妃を愛する王の不興を買ってしまう
充分に注意をして振舞わないと・・・。
 
公爵家の娘がそう心掛けるにも関わらず
王妃は一向に何も覚えなかった。
 
会議では、公爵家の娘の “通訳” が続く。
 
 
 続く 
 
 
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