継母伝説・二番目の恋 11

「あたしのお友達。」
 
事務室で書類を探す公爵家の娘の背後で
少し息切れしつつも、弾んだ軽やかな声がする。
 
公爵家の娘はまず作り笑いをして、それから振り向いた。
「王妃さま、どうなさいましたの?」
 
王妃は用があるならば、その者を呼べば良いだけである。
だけど、その命令すら出せないらしい。
この広い城内を、どれだけ探し回ったのやら・・・。
 
 
「湖、行きたい。」
この少女は、相変わらずそういう事ばかり。
公務をしないと、王の寵愛が消えたらどうするのよ・・・。
 
胸の中ではそう思うも、“王妃さま” に、あまりキツい事も言えない。
「わかりました。
 では、召使いに命じましょう。
 誰かおらぬか?」
 
廊下に出て叫ぶ公爵家の娘の腕に、王妃がしがみつく。
「あたし、あなたと行きたい。 あたしのお友達。」
 
公爵家の娘は、突然触られた事にちょっと驚いたが
少しムッとした。
この少女はこの調子で、王にも媚びているのかしら?
 
 
「・・・今日ですか?」
公爵家の娘の冷たい眼差しに、王妃はうつむいた。
「・・・ダメなら、明日・・・。」
 
このような時には、思わず溜め息が出るものである。
が、公爵家の娘は笑顔で言った。
「わかりましたわ、王妃さま。
 それでは明日は湖で昼食を摂りましょう。」
 
王妃がモジモジとうつむいて、しかし嬉しそうに微笑む。
何て小さく可愛い少女なのだろう
王が惚れ込むのもわかる。
けど、だけど・・・。
 
見下ろすこの目の冷たさに気付かれてはいけない。
公爵家の娘は、書類を見るフリをしながら背中を向けた。
 
 
翌日、湖へとやってきたふたり。
他の者も誘ってはみたけれど、うやうやしく断わられた。
 
王妃が一緒だからだとは思うけど、このあたくしも軽んじられているようね。
公爵家の娘はイライラしていた。
 
ふと気付くと、王妃が皿を並べている。
「おまえたち・・・。」
召使いたちを睨むと、慌てて否定する。
「違います!
 王妃さまがどうしてもご自分でなさりたいと・・・。」
 
 
まるでままごと遊びをするように楽しそうな王妃に
公爵家の娘は、喉まで出掛かった説教を何とか飲み込む。
 
「出来た!」
王妃がニコニコと声を掛ける。
「この料理、あたしの国の料理。」
 
「え・・・、王妃さま自らが料理を・・・?」
更に呆気に取られる公爵家の娘の手を掴んで
グイグイとテーブルに引っ張っていく王妃。
 
 
「材料が同じじゃないから、ちょっと違う。
 けど、この料理、美味しいと褒められてた。
 どう?」
 
王妃の期待に満ちた眼差しに、お小言も言えず
仕方なく料理を口にする公爵家の娘。
 
その料理は、今までに食べた事がない味だったけど
スパイスが利いていて、確かに美味しい。
 
「あら、これは美味しいですわ。
 チキンに、こういう味付けがあるとは。
 この国では思い付かない香辛料の配合ですわね。」
 
その賞賛に、王妃は喜びのあまりに公爵家の娘に抱きついた。
「良かった。
 あたし、どうしても食べてもらいたかった。
 でも、スパイス、ない。
 でも、外で食べると美味しい。
 だから・・・。」
 
 
公爵家の娘は、一生懸命に言葉を探す少女に少し同情をした。
このお方は寂しいのだろう。
 
そうよね、南国では鮮やかな色の花に囲まれて
小鳥を指に乗せて、伸び伸びと歌っていた。
その周囲には、見守る両親らしき人や兄姉たち
飲み物を運ぶ使用人でさえ笑顔だった。
 
あの暖かい色の生活から一転
今は誰も知り合いがいない東国での、王妃暮らし。
 
東国に温情がないわけではないけれど、宮廷は政治の場。
そこで暮らすのは、東国の貴族の生活に慣れていないと辛いであろう。
 
 
あたくしも少し厳しすぎたようね。
もっと長い目で見守ってあげるべきかも知れない。
 
「わかりましたわ、王妃さま。
 お心遣い、ありがとうございます。
 さあ、一緒に食べましょう。
 これ、本当に美味しいですわよ。
 こちらのスープも、初めていただくものですわ。」
 
公爵家の娘の言葉に、王妃は嬉しそうに笑った。
 
 
 続く 
 
 
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