継母伝説・二番目の恋 12

ああ・・・、食べ過ぎたわ・・・。
 
普段、食べない量を食べてしまったせいで
公爵家の娘は、馬車に乗る気がせず
すぐに帰るつもりだったのを、大木にもたれて休むハメになってしまった。
隣では、王妃がスヤスヤと寝息を立てている。
 
 
細い首ね・・・
無理につけ毛を着けなくても、この子にはショートが似合うわよね。
 
・・・ではなくて、私はこの書類を読んでおかなきゃ。
念のために持ってきておいて、本当に良かったわ
ムダな時間を過ごさずに済む。
この子は気楽で羨ましいわね。
 
 
湖面は太陽の光が反射して、キラキラと眩しい。
ああ・・・、良いお天気・・・
こうやって外に出たのなんて、何か月ぶりかしら
 
なだらかな曲線の緑の山に空の青、そして湖面の白い波。
こんなに美しかったのかしら、この国は・・・。
 
 
「・・・さま、姫様」
召使いの声で、公爵家の娘は目を覚ました。
 
あら、寝てしまっていたのね、あたくしとした事が。
 
自分のその気を抜いた行為を、少し恥じたが
召使いの向こうで、ドレスをまくり上げて
湖に入って遊んでいる王妃の姿が目に入った途端
たちまち意識は怒りに占領された。
 
 
睨む公爵家の娘に、召使いたちは慌てた。
「わたくしどもは、ちゃんとお止めいたしました!
 でも、お聞き入れくださらなくて・・・。」
 
公爵家の娘は、召使いの言い訳には応えずに
立ち上がり、スタスタと王妃のところへと歩み寄った。
「王妃さま。」
 
「あ、あたしのお友達、よく眠ってた。
 天気、良い。
 水、気持ち良い。」
 
 
太陽の光の粒に囲まれた王妃の笑顔も、またキラキラとしていた。
公爵家の娘は、やれやれと微笑みながら手を伸ばした。
 
「さあ、こちらへ。 もうお城へ帰りますよ。」
「いや! もうちょっと遊ぶ。」
王妃は公爵家の娘に背を向けて、水の中を歩き始めた。
 
「王妃さま、急に深くなってる場所もありますのよ
 危ないですわ、帰ってきてくださいな
 さあ、私の手を、きゃあっ!!!」
 
バッシャーン
 
 
危ない目に遭ったのは、公爵家の娘の方だった。
岸の石に滑って、前のめりに転んだのである。
もう、全身ズブ濡れである。
 
召使いたちは青ざめ、動けずにいる。
公爵家の娘は、一度も乱した事のない髪を手ではらいながら
ゆっくりと立ち上がる。
 
「大丈夫? ケガ、ない?
 ごめんなさい、あたし、我がまま言った。」
 
駆け寄る王妃に、公爵家の娘は微笑んで優しく言った。
「大丈夫ですわ。
 こちらこそ、王妃さまにご心配をおかけして申し訳ございません。
 さあ、城へ戻りましょうね。
 貴婦人は、料理も水遊びもいたしません。」
 
 
公爵家の娘の目は、先ほどまでとはうって変わって
まるで無機質なものを見るかのごとく、冷ややかな色をたたえていた。
 
王妃はうつむいて、公爵家の娘の後ろについていくしかなかった。
 
 
 続く 
 
 
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