継母伝説・二番目の恋 15

会議が進む最中、公爵家の娘は苦戦していた。
書類の文字が、どんどん薄くなり2重になるのだ。
 
寝てはダメ!
テーブルの下で、腕を思いっきりつねる。
だけど、睡魔は去ってはくれない。
 
 
あくびをかみ殺している時に
ふと窓の外に鳥が飛んでいるのが目に入った。
 
あの湖でも鳥が空を舞っていた。
湖面に青い空と新緑の山が映るのを、太陽の光が輝いて消す。
何て美しい風景だったのでしょう
この国を空から見下ろしたら、どんな光景なのかしら
 
 
唇に何かが触れ、公爵家の娘は我に返った。
王の顔が目の前にある。
 
「ここのところ、わしが寝せてやらなかったから疲れておるのだ。
 すまぬ事をしたな。」
 
唇を離した王が前に向き直り、ヌケヌケと言うので
臣下たちが苦笑いをする。
「いやいや、これはご馳走様ですな。」
「ほんに美しい姫さまたちに囲まれて、羨ましい事で。」
 
 
公爵家の娘の唇に、初めて他人の唇が触れた瞬間だった。
だが公爵家の娘は、赤くならずに青くなった。
 
自分は会議の場で眠りこけていたのだ!
 
あたくしとした事が・・・
慌てたかったが、悠然と書類を見直す。
うろたえてはならない。
王さまがかばってくださったのだから、それを無にしてはいけない。
 
 
会議に何とか耐えた公爵家の娘が、自室に戻ろうとすると
ベイエル伯爵が待ち構えていた。
 
「公務に支障をきたす程の、王さまの熱心なお通い、ご苦労様ですな。
 でもあなたの一番の仕事は、政治への口出しよりも
 世継ぎを産む事ではないですかな?
 おっと、失礼、王さまには王妃さまがいらっしゃいましたな。」
 
嫌な笑みを浮かべながら、ベイエル伯爵は去って行った。
何なの? あやつは!!!
頭に血が上った瞬間、目の前が真っ暗になった。
 
 
気付いたら、自分のベッドに横たわっていた。
着替えも済ませてある。
 
「お気付きですか、今、王さまがおいでになられます。」
召使いの言葉が、よく理解できない。
 
 
程なくして、王が部屋に入って来た。
その時になって、ようやく事態が飲み込めた公爵家の娘。
そう、王は “お見舞い” に来たのである。
 
「王さま! この度の失態、幾重にもお詫びを・・・」
起きようとする公爵家の娘を、王が止める。
 
「起きずとも良い。
 そなたは、しばらく休養を取れ。
 王妃の分も無理をしてくれたのであろう、すまぬ。」
王の謝罪に、王妃への愛が感じられる。
 
 
しょうがない・・・
この国の王が詫びてくれるのだから、臣下はそれに応えるのが使命。
 
「いえ、あたくしが休むと、身篭ったと誤解されかねません。
 そうなると、益々王妃さまのお立場が苦しくなります。
 あたくしは単なる寝不足なのですから
 それをお詫びして、明日から通常通りに動きますわ。」
 
その言葉に、王は本当に頭が下がる想いだった。
「そなたは・・・。」
 
 
王は公爵家の娘の努力を知っていた。
何故なら朝方に自室に戻る時に、この部屋を通るからである。
その時に公爵家の娘は、書類を枕に居眠りをしている。
 
いつも王がどこから帰っているのか、気付かない公爵家の娘も
しっかりしているようでいて、とんだ片手落ちではあるが
その天然ボケは、王を苦しめた。
 
自分の我がままのフォローのために
陰で無理をする人間を目の当たりにして
平静でいられるほど、冷血ではなかったからだ。
 
 
しかし、わしはこの国の王。
すべてのものの主なのだから。
 
王は公爵家の娘への感謝を、表立って出さなかった。
それは王に生まれついた者の、プライドと糧。
 
 
「それでは、わしは出来る限りこの寝室を通ろう。
 そなたの疲れの言い訳が立つようにな。」
「恐れ入ります。」
 
公爵家の娘は無表情で頭を少し下げた。
 
 
 続く 
 
 
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