継母伝説・二番目の恋 16

「おお、我が愛しの娘よ!」
公爵家の娘の部屋に入って来たのは、父公爵であった。
 
「お父さま、お久しぶりです。」
公爵家の娘は心から嬉しかったが、冷静に立ち上がり手を出す。
その手に父公爵が口付ける。
 
娘とは言え、王の側室となった今、身分は父公爵より上。
今回の私室での謁見も、王の許可を得てのものである。
 
 
お茶を持ってきた召使いが下がった後に
父親と娘は、ようやく本題に入れた。
 
「苦戦しておるようだな、我が娘よ。
 今回は、おまえが倒れたという事で
 王が特別に “宮廷への用” を申し付けてくれたので
 一時的に帰って来れたのだ。」
 
公爵家の娘が、思わず口にする。
「お父さまは何故、宮廷にいらっしゃらないのですか?」
 
「うむ、実は西国との貿易交渉が難航していてな。
 わし自らが西国に行く事になったのも
 ベイエル伯爵家が推薦してくれたせいだ。
 そのせいで我が娘が大変な時に、側にいてやれぬ。
 まことに、あの家には手こずらされる・・・。」
 
 
ベイエル伯爵・・・?
お父さまから、その名が出るとは。
 
「あのベイエル伯爵という者は、何故にあたくしに反感を持っているのです?
 事ある毎に噛み付いてきますのよ。」
 
「ベイエル伯爵家とは、数代前の嫁の取り合いからの因縁でな。
 我が公爵家が勢力を大幅に拡大できたのは
 その嫁実家の力添えのお陰もあったのだ。
 あの時に、その女性がベイエル伯爵家に嫁いでいたら
 今の地位は逆転しておったかも知れぬ。」
 
「そうでしたの・・・。
 先祖代々の恨みでしたのね。」
 
 
「そこで、おまえが産まれた時に
 ベイエル伯爵の長男におまえを嫁がせて
 今までの確執を取り払おう、という話が出てな。」
 
「あたくしをですの?」
「うむ、ベイエル伯爵からの申し込みだった。
 だが公爵家は、仲の悪い伯爵家との和解より
 王家と姻戚関係を結ぶ可能性を選んだのだ。」
 
公爵家の娘は、すべてを理解した。
そして同時に恥じた。
あたくしが王の目に留まってさえいれば・・・。
 
 
父公爵は立ち上がった。
「今日は久々におまえの顔を見られて嬉しかったぞ。
 わしは、まだ帰っては来られぬ。
 大変だが、持ちこたえてくれ。」
 
父公爵のその言葉は、公爵家の娘をムッとさせた。
自分はひとりでも、ちゃんとやれる。
 
「お父さま、あたくしなら大丈夫ですわ。
 それより政敵の事などは、早く伝えておいてくださいな。
 あたくしとて、公爵家の娘。
 公爵家に仇なす者は許せませんわ。」
 
「うむ、わしはおまえをあなどっていたようだ。
 おまえは実に上手くやっておるようだな。
 周囲の評判も良い。
 これで、おまえが王国の跡継ぎを・・・」
 
「お父さま!」
 
 
公爵家の娘は、父公爵の言葉をさえぎった。
「過ぎたる野望は身を滅ぼしますわ。
 王さまのお側に仕えるあたくしが、それを “しない” のには
 相応の理由がある、と信じてくださいませ。」
 
娘の瞳に、父公爵も感ずるとこがあったようである。
素直にうなずく。
 
「そうか・・・。
 おまえがそう言うのなら
 わしはその件に関しては、口出しすまい。」
 
「恐れ入ります。
 ご期待に沿えず、申し訳ございません・・・。
 ですが、今後の働きで何倍にもして返してみせますわ。」
 
決意に満ちた表情で、お辞儀をする娘の姿に
父公爵は寂しげに微笑んだ。
 
我が娘よ
おまえは女である事より政治の道を選んだのだな・・・。
 
 
公爵家の娘は、公爵の嫡子庶子の中で、ただ一人の女子であった。
 
 
 続く 
 
 
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      継母伝説・二番目の恋 1 12.6.4 
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Comments

“継母伝説・二番目の恋 16” への2件のフィードバック

  1. 椿のアバター
    椿

    何気ない仕草や会話が読んでいてすごく面白いので、いつも最新作を読んでは続きはいつかなと既に思ってます。
    これからどの様に発展していくかも見当がつかないのであしゅさんがどう持っていくのかが楽しみです!

  2. あしゅのアバター
    あしゅ

    おおお、椿ちゃん、ありがとうーーー。

    もう、話の筋は決まってるんだ。
    言いたくてウズウズするけど
    言ったら、まことのアホウなんで
    耐えて忍んでいるよー。

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